2020.04.27
母子健康手帳は、一般的に「母子手帳」と呼ばれ、母子保健法第十六条に「市町村は、妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない」と規定されています。
自分の住んでいる市区町村の役所で「妊娠届」に必要事項を記入して提出すれば、その場で受け取ることができます。ただ、市区町村によっては、本人確認書類やマイナンバーカード、産院の証明書などが必要な場合もあるので、何が必要なのかは各市区町村の役所に問い合わせて確認しましょう。また、母子健康手帳交付の日にちや時間を設定している役所もあります。本人ではなく、代理の人が受け取ることもできますが、身分証明書や印鑑などが必要な場合もありますので、事前に各役所のHPや窓口で確認しておきましょう。
母子健康手帳を受け取る時期は、個人差はありますが、妊娠6~11週ごろになります。妊婦健診で頭殿長(CRLと呼ばれる赤ちゃんの頭からおしりまでの長さ)が2cmくらいになり、胎児心拍が確認されたころに産院より受け取りの指示がでるでしょう。母子健康手帳は一人につき一冊なので、双子の場合は二冊受け取ります。
母子健康手帳の重要な役割は、妊娠期からの母子の健康に関する情報が一つの手帳で管理されていることです。
母子健康手帳には、妊娠の経過や出産の状態の記録、乳幼児期の健康診査の記録、予防接種の記録、乳幼児身体発育曲線などのページがあり、成長記録を一冊で把握することができます。妊産婦自身や医師・保健の担当者が記入する、妊産婦や新生児・乳幼児の記録に関する部分は、厚生労働省が定めた様式により 全国統一となっていますが、表紙のデザインやサイズ、妊産婦の健康管理や新生児・乳幼児の養育に必要な病気やけが予防について、子育てサポートの連絡先などの情報、予防接種や母子保健に関する情報、母子健康手帳を利用するにあたっての留意事項などの任意様式の部分は自治体の任意で決定されています。母子健康手帳は、お母さんと子どもの健康と成長の記録であると同時に、妊娠と育児に関する育児書の役割も担っています。
母子健康手帳を受け取ると、妊婦のための公的サービスを受けることができます。サービスの内容は自治体によって違いがありますが、母子健康手帳と一緒に、健診が無料になる妊婦健康診査受診票(平均2回分)や健診補助券、妊婦訪問指導のお知らせなど、行政のサービスを受ける際に必要な書類を一緒に渡されることが多いようです。
妊娠中は産科医、出産後は小児科医と、成長に合わせてかかりつけ医が変わっていきます。妊娠、出産、育児を一貫して記録することで、異なる医療機関や専門家が診ても一貫した医療が受けられるようになっています。記録を参考として、保健指導や健康診査が行われますので、妊婦健診や出産、母親学級、歯科治療、子どもの医療機関の受診時など常に携帯しましょう。
また、単なる記録だけでなく、お母さんやお父さんの気持ちを書くスペースもあります。自分の思いや質問事項などを記載しておくと、医療者とのコミュニケーションツールにもなります。妊娠中の定期健診やその他の検査の際、医師や助産師が健診の結果を記入し、記録をしてくれます。そして、外出の際にその母子健康手帳を携帯していれば、妊娠の経過が詳しく書かれているので、急なアクシデントが起こっても応急処置に必要な情報がすぐに分かり、適切な対応をしてもらうことができます。
その他にも、産休にはいる際、母子健康手帳のコピーの提出が必要になったり、幼稚園や小学校へ入学する際に健康診断の参考にしたりする場合もあります。
母子健康手帳という名称でもあるため、どうしてもお母さんが記入するものとして認識されていますが、お父さんにとっても大事な子どもです。お父さんとお母さんが一緒になって、生まれてくる子どもに関心を持ち、母子健康手帳を積極的に読んだり記入したりすることで、パートナーとのコミュニケーションツールとしても活用することができます。妊娠によって体の変化を感じることができないお父さんが、親になる心の準備や育児に参加するきっかけづくりにもなりますし、万が一のためにお父さん自身がお母さんの健康状態や、子どもの健康と発育についての情報を把握しておくことも大切です。
母子健康手帳を受け取った後に引っ越しをする場合や里帰り出産の場合、新しい自治体で新たな手続きは必要ありません。基本的な母子健康手帳の主要ページは全国共通であり、表紙などの違いはありますが問題はありません。しかし、母子健康手帳と一緒に交付される、妊婦健診の受診券や補助券は、自治体独自に発行しているため使用できなくなることがあります。転居先や里帰り先の自治体で確認しましょう。
母子健康手帳を紛失してしまった場合は、再交付の申請書を提出すると役所で再交付をしてもらえます。必要なものは各自治体で違うので確認してから出向いたほうが良いでしょう。また、自治体によっては電子版の母子手帳を導入しているところもありますので、従来の紙の母子健康手帳と併用し、電子版でも記録しておくと、万が一紛失してしまっても以前の記録は残り安心です。
母子健康手帳と一緒に受け取る妊婦健診の補助券は再交付できないとする自治体が多いようです。しかし盗難などによるによる紛失でなければ、再交付してもらえる場合もありますので各自治体に確認しましょう。また、母子手帳を受け取った後に、残念ながら妊娠の継続ができなかった場合、母子健康手帳の返却などは必要ありません。
母子健康手帳は、妊娠中、出産の経過だけではなく、その時の母親や家族の気持ち、生まれた後の定期健診や予防接種なども記録する大切な家族の宝物です。失くさないように大切に管理しましょう。
《 監修 》
濵脇 文子(はまわき ふみこ) 助産師
大阪大学大学院医学系研究科招聘准教授。
助産師・保健師・看護師。
産前産後ケアセンターヴィタリテハウス施設長。
はぐふるアンバサダー。
妊娠から産後まで、一人一人に寄り添い幅広くサポートを行う。
また、自治体や企業とマタニティーソリューションの事業構築や講演・執筆活動、専門職の教育研究にも携わる。
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