2020.11.02
妊娠初期は、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が増大します。プロゲステロンは妊娠に関わるホルモンで、子宮内膜を柔らかくし、乳腺を発育させるなど、赤ちゃんがおなかの中に宿る準備を進めますが、母体には眠気を起こさせます。夜間の睡眠でも、深い睡眠が減り、途中で目覚めることも多く、また、睡眠中にこむら返り(足のつり)が起こったりします。さらに、悪阻(つわり)による体調不良も、安眠を妨げる要因となります。
このようなことから、妊娠初期は、夜間は睡眠の質が低下するうえに、日中はホルモンの影響で眠気が起こるため、結果、眠くて仕方がない状態になってしまいます。
プロゲステロンの分泌は、精神面にも影響を与え、イライラする・憂鬱になる・攻撃的になるなど、情緒を不安定にさせます。特に、初めて妊娠した人には、妊娠は心理的な影響が大きいものです。妊娠という初体験ならではの不安に襲われ、流産を恐れたり、日常生活に気を使いすぎたりして、ストレスが大きくなるからです。この時期、睡眠中に歯ぎしりする人が多いことは、ストレスが大きいことを示しています。また、ストレスによって不眠に陥る場合もあります。
このように、妊娠初期は、常に睡眠不足を抱え、ますます日中の眠気が強まることになります。
では、妊娠初期の睡眠問題をどう解決したらいいのでしょうか。
まず心がけることは、妊婦はどうしても眠くなるものだということを受け入れることです。
妊娠が睡眠の質を落とすことは生理現象であるからです。
よく眠れないことを気にしてストレスを抱えるより、「おなかの赤ちゃんが育っていくために今は眠ることが大切」とポジティブに捉えましょう。
次に、眠い時は、我慢せずに眠りましょう。
働いている女性は難しいかもしれませんが、できるだけ日中に短時間の睡眠をとるようにします。
できなければ、目を閉じて深呼吸したりして休息をとります。
その後、眠気が残ってつらい時は、外気に触れて、体を動かし、眠気を払います。
また、職場の理解を得ておくことも大切です。
躊躇せずに、妊娠初期の体の状態ついて周囲に伝え、休息する時間をもらいましょう。
一方、家庭にいる人は、つい、だらだらと眠ってしまいがちです。
目が覚めたら、スッパリと起き、その後は体を動かして眠気を払いましょう。
夕方から長々と寝てしまい、夜更かしになるのは良くありません。
もう一つ、必ず心がけてほしいのは、起床就寝と食事の時間や運動、入浴などの生活習慣を規則正しくすることです。
朝は太陽光を浴び、体内時計が乱れないようにし、就寝は12時前にします。特にスマホやPCを就寝直前まで使うことは控えてください。体内リズムが乱れたまま妊娠期をすごすと、出産や育児にも悪影響を与えるので、妊娠初期に規則正しい生活を身につけておくことが重要です。
最後に、パートナーや家族に妊娠中の体の状態を理解してもらい、サポートしてもらうことが大切です。出産は妊婦だけの仕事ではありません。新しい命のためにみんなに協力してもらいましょう。
以上のようなことを心がけて生活していても、不眠が続いたり、日中の眠気やだるさが強いために、生活に支障がでたりするようであれば、必ず医師に相談してください。
参考文献:白川修一郎編「特集 女性の睡眠障害」『睡眠医療』第6巻第3号,2012年
《 監修 》
橋爪 あき(はしづめ あき) 睡眠改善インストラクター
慶應義塾大学卒業。
一般社団法人日本眠育普及協会代表、睡眠改善インストラクター(日本睡眠改善協議会認定)、
日本睡眠教育機構上級指導士、日本睡眠学会会員、NPO法人SASネットワーク理事。
睡眠知識の広報活動、講演、執筆、メディア・企業の企画協力などを行う。
▶HP https://min-iku.com/