2020.10.19
35歳以上の初産を「高年初産」といいます。
高年初産は増加傾向にあり、厚生労働省の発表によると、2018年に第1子を出産した人のうち35歳以上は約9万人で、初産婦さん全体の約21%、出産全体でも9.8%になります。
つまり、初産婦さんの5人に1人は高年初産になります。1)
これだけ普通になっている高年初産ですが、だからといって全く心配がいらないわけではありません。
年齢に関わらず「初産」では分娩時間が長引く傾向があり、合併症が起きるかどうかも予測しにくいため、第2子以降よりも注意が必要です。それに加えて「高年出産」によるリスクが加齢とともに上昇し、35歳くらいから影響が出やすくなります。
ここでは、高年初産の場合に気になる点をまとめました。どんなことに注意が必要なのかをチェックし、出産への備えの参考にしてください。
35歳以上の妊娠では、30代前半までの妊娠に比べ、赤ちゃんの染色体の数や構造に異常が発生する確率が高まります。
おなかの中の赤ちゃんの染色体異常の可能性は、出生前検査によってある程度は予測することができます。一般的な出生前検査は次の通りです。
《超音波検査》
超音波を使って、赤ちゃんの週数に応じた成長や形態の異常を調べます。妊婦健診として行われるのが一般的ですが、最近では胎児ドックと称して胎児超音波の専門家が詳しく調べる施設もあります。
《母体血清マーカー》
妊娠15~17週にママの採血で調べます。いくつかのマーカーの濃度を測定し、ダウン症、二分脊椎症や無脳症、18トリソミーの確率を推定します。近年は母体血清マーカーと超音波診断を組み合わせたハイブリッド検査が注目されています。
《NIPT》
「無侵襲的出生前遺伝学的検査」の略で、ママの血液の中にわずかに含まれる胎児由来のDNAを調べることで染色体異常の診断をします。羊水検査と違って赤ちゃんへの影響はない検査ですが、これも限られた染色体異常の検査しかできません。
また1割強の「異常の見逃し」の可能性があるといわれています。つまり、NIPTで「異常と診断されればほぼ間違いなく染色体異常あり」ですが、「正常と診断されても1割くらいは外れる」ということです。
《羊水検査》
妊娠16~18週にママのおなかから子宮の内側まで針を刺して羊水を採取し、直接染色体の数や形態の異常を調べます。ごくまれに羊水を取っても結果が出ないことがあります。また1/300程度の確率で、検査が原因で流産になる可能性があります。
大切なこととして、羊水検査以外はすべて「推定」しかできません。また、羊水検査はいくつかの限られた疾患の診断ができますが、全ての遺伝的異常を調べる方法は存在しません。
赤ちゃんに異常がないか知りたいという気持ちは自然なことですが、「全て異常なし」を保証してくれるような検査はなく、ダウン症などごく限られた染色体異常しか判定できないことを認識しておきましょう。
妊娠すると、おなかの赤ちゃんを育てるため、ホルモンの分泌が変化し体の諸器官に負担がかかります。高年初産の場合は、そこに加齢による血管の老化なども加わるので、とりわけ妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症には注意が必要です。
ただし、これらの病気は、生活習慣を改善することである程度は予防でき、重症化を抑えられます。
カロリーや塩分の多い食事を控える、運動や睡眠に気をつけてストレスをためない、体重の大幅な増加に注意するなど、健康的な生活習慣を心がけましょう。
分娩では子宮の出口に当たる頚管が軟らかくなって子宮口が開きます。
初めてのお産では、赤ちゃんの頭が通るくらいに開くまでの時間は、経産婦さんに比べておおよそ2倍かかります。
陣痛が来てから産まれるまでの時間は、初産婦さんで約12時間、経産婦さんで約6時間とされていますが、高年初産の場合は疲労が蓄積して微弱陣痛になってしまうことが多いようです。
個人差も大きいので、妊娠中からウォーキングやストレッチなど適度な運動を無理のない範囲で続けて、半日続く陣痛に耐えられるくらいの気力と体力を養っておくのが望ましいでしょう。
高年初産のリスクには避けられないものもありますが、日頃の努力や準備によって軽減できることもたくさんあります。
合併症を早期発見するためには、妊婦健診を定期的にきちんと受けることが大事です。
また、気になることがあれば、予約の日を待つことなくかかりつけの産婦人科を受診して相談しましょう。
もしも高血圧や高血糖などの合併症が出現した場合は、かかりつけ医師の指示に従って悪化させないように気をつけましょう。
また、肥満を避け、体力を付けるための適度な運動も習慣にしましょう。
妊娠中は、心身のコンディションを整えることが大切です。高年初産であっても、過度に嘆いたり心配したりするのは何のプラスにもなりません。
仕事でもプライベートでも今までのやり方を少しペースダウンして、自分の体と心をいたわりながら、サポートしてくれる家族、かかりつけの産科医や助産師と一緒に、できること、すべきことを着実に行って良いお産を目指しましょう。
1) 厚生労働省「平成30年人口動態統計(確定値)の概況」
第4章 母の年齢(5歳階級)・出生順位別にみた出生数をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/dl/08_h4.pdf
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科