2021.10.04
妊娠・出産で受けた体のダメージの多くは、時間の経過とともに回復していきます。しかし、体が大きく変化する産後は、さまざまな部位にトラブルが起こりやすいもの。中には治療が必要な「病気」のケースもあるので注意が必要です
●子宮復古不全(しきゅうふっこふぜん)
子宮復古不全は、子宮の収縮がスムーズに行われないこと。
原因として最も多いのは、胎盤(たいばん)や卵膜(らんまく)が子宮に残っている場合です。
また、巨大児(きょだいじ)や子宮頸管熟化不全(しきゅうけいかんじゅくかふぜん)などで分娩時間が長くなり、いわば子宮が伸び切った状態になってしまった場合に起こりやすくなり、子宮内感染なども原因の一つになります。
血が混じった悪露が長く続く、レバーのような塊が1日に何度も出る、1カ月健診後、治まっていた悪露が再び出て血が混じるなどの場合は、早めに受診しましょう。
●胎盤遺残(たいばんいざん)
子宮に胎盤の一部が残ることを胎盤遺残といい、産後の大量出血の原因になります。
分娩(ぶんべん)直後に判明することも多く、退院診察時の超音波検査などでもわかりますが、部分的に残った場合には判明が難しいこともあります。
産後に悪露が長く続いたり、急に鮮紅色の出血があったりした場合はすぐに受診しましょう。
●産褥熱(さんじょくねつ)
産後数日以内に38度以上の熱が2日以上続いたときは産褥熱を疑います。
原因は子宮内に細菌が入って感染することです。通常は入院中に発症し、抗生剤(こうせいざい)が処方されるほか、子宮内の洗浄などが行われることもあります。
子宮復古が不十分で子宮内に血液などが貯留している場合になりやすいですが、原因はさまざまです。
適切に対処すれば治りますので、熱が続く場合は必ず医師に相談してください。
●血栓性肺塞栓症(けっせんせいはいそくせんしょう)
血栓性肺塞栓症は、足の静脈にできた血栓が血流によって移動し、肺の動脈が詰まる病気で、命に関わることもあります。
もともと血液が凝固しやすい体質の方に起こることが多いのですが、実は妊娠中は血液が固まりやすくなり血栓もできやすいため、妊娠しているだけで血栓症のハイリスクグループに入ります。
帝王切開後などは非常にリスクが高いため、高脂血症などのリスクのある方は血液を固まりにくくする薬を投与することもあり、術後は早めに体を動かす早期離床(そうきりしょう)が指導されます。
普通分娩であってもリスクはありますので、できる範囲で足を動かすようにしましょう。
●妊娠高血圧症候群(にんしんこうけつあつしょうこうぐん)の後遺症
妊娠中に発症した妊娠高血圧症候群のほとんどは、産後改善していきます。
しかし、遺伝的に高血圧になりやすい人や妊娠前から腎疾患(じんしっかん)があった人の場合、後遺症として、産後も高血圧やタンパク尿が続くことがあります。
放置すると、将来、生活習慣病を発症したり、腎機能の低下を引き起こしたりする可能性があるので、定期健診を受け、食事や生活を管理することが必要です。
●痔(じ)
産後は、育児の疲れや寝不足、授乳による水分不足などで便秘になりやすいもの。
便秘で強くいきむと、肛門を傷つけたり、直腸内のうっ血が進んだりして痔が悪化します。
食事の工夫や水分補給で改善しない場合は医師に相談しましょう。
お通じをよくする酸化マグネシウムなども必要に応じて使用すべきです。
●膀胱炎(ぼうこうえん)・腎盂腎炎(じんうじんえん)
産後は細菌が尿道(にょうどう)に入りやすくなり、細菌が膀胱から腎盂に侵入し腎盂腎炎を発症すると、突然40度近い高熱が出る場合があります。
残尿感や排尿痛など膀胱炎の症状が出たら、速やかに受診をしましょう。
●貧血(ひんけつ)
特に妊娠前から貧血気味だったり出産時の出血量が多かったりした人は、産後に貧血になりやすいので気をつけましょう。
貧血は重症化するまで目立った自覚症状がありません。
めまいや立ちくらみを感じたら、産婦人科か内科を受診しましょう。
●腰痛(ようつう)
妊娠中は骨盤の周囲の筋肉や靭帯(じんたい)が緩むのに加え、姿勢の変化により骨盤や背骨のバランスが変化し、中には運動不足によって筋肉が衰える人もいます。
そのため妊娠中から腰痛に悩む人は多いですが、産後は赤ちゃんのお世話が始まって、いっそう腰痛がひどくなりがちです。
体操やストレッチで軽減しない場合は、早めに整形外科や産後リハビリテーションなどを受診してください。
出産後の忙しい毎日、赤ちゃんのお世話を優先して、ついついお母さん自身の体調管理が後回しになっていませんか?
病気は治療の開始が遅れるほど、症状が悪化したり長引いたりします。「おかしいな」と思う症状があったら、できるだけ早く受診しましょう。
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科