2022.06.13
1. 中耳炎とはこんな病気
2. 中耳炎の原因と症状
3. 中耳炎の検査でわかること
4. 中耳炎の治療法と薬
5. 中耳炎の予防とホームケア
図1:耳の構造
中耳炎には、急性中耳炎、滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)、慢性中耳炎などがありますが、子どもに多い中耳炎は急性中耳炎と滲出性中耳炎です1)。
このうち、一般的に中耳炎といわれているのが急性中耳炎です2)。
小児の耳の病気で最も多いのは急性中耳炎です。
1歳までに15~20%、2歳までに20~70%、3歳までに50~70%の小児が少なくとも1回はかかるといわれています3)。
滲出性中耳炎は、1歳までに50%以上、2歳までに60%以上、6歳までに90%の小児が少なくとも1回はかかるといわれています4) 。
風邪などの上気道の感染症をきっかけに起こることが多いといわれています5) 。
耳管には、中耳の中の圧力の調節や、中耳に溜まった液体などの異物を排泄する働きがありますが6) 、急性中耳炎の発症には耳管の機能の障害が関係しているといわれています7) 。
また、小児の耳管は、成人に比べて太くて短いので、細菌やウイルスが通りやすいため1) 、成人よりも小児がかかりやすい病気です。
【急性中耳炎を引き起こす主な細菌】
肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス菌の3つですが3) 、これらの細菌の感染に先立ち上気道の感染症の主な原因であるウイルスの感染がみられることが多いです8,9) 。
【急性中耳炎になりやすい因子】
男児、口蓋裂、ダウン症、仰臥位での哺乳、アレルギー性鼻炎、受動喫煙、哺乳瓶での哺乳などがあり、結局これらの因子は耳管の機能に影響するためと考えられます7,9,10,11) 。
【中耳炎の主な症状】
急性発熱、耳の痛み(耳痛:じつう)、聞こえが悪くなる(難聴)、耳がふさがった感じがする(耳閉感:じへいかん)ですが、病気が進むと鼓膜が破れて耳だれ(耳漏:じろう)が出てくることがあります(表1)。
乳児は痛みを表現できないので、機嫌が悪くなったり、ぐずったりします1,2) 。
このほか、耳に指を突っ込んだり、耳をひっぱたりすることが急性中耳炎のサインとなることもあります。
発熱は必ずしも高熱にはなりませんが、原因不明の発熱の原因が急性中耳炎だったということもあります3)。
上気道の感染症(風邪など)や急性中耳炎に続いて引き起こされ4,5) 、アデノイドと呼ばれる部位(鼻奥の扁桃の仲間)が大きい、頻繁に鼻炎症状を起こす幼少児に多くみられます1) 。
また、アレルギー性鼻炎や急性鼻炎、副鼻腔炎などにかかった後に発症することもあります。12)
滲出性中耳炎の主な症状は、聞こえが悪くなる(難聴)、耳がふさがった感じがする(耳閉感:じへいかん)です(表1)。
表1:中耳炎の主な症状
乳児は症状を言葉に表せないことや自分では気づかないことがあるうえ、発熱や耳の痛みがあまり起こらないため、発見が遅れることがあり、3歳児健診でみつかることもあります。
家庭内では、呼んでも振り返らない、聞き返しが多い、テレビの音を大きくするなどをきっかけにして発覚する場合があります3,4) 。
急性中耳炎や滲出性中耳炎が治らないと、慢性中耳炎となって難聴になることや、手術が必要になることもあります(表1)2,12) 。
滲出性中耳炎により言葉の発達が遅れることがあります。
急性中耳炎では、耳の痛み、耳がふさがった感じ、耳だれなどの症状(主症状)と、発熱、声をあげて泣く、不機嫌、風邪のような症状などの主症状以外の副症状を合わせると、ほぼ診断できるといわれています。
検査では、鼓膜内視鏡などの器具を使って、鼓膜の腫れの有無や色の変化を調べます13) 。
滲出性中耳炎では、軽い耳の痛みや耳がふさがった感じなどの症状はあるものの、軽い症状であることが多いため、症状だけでは見過ごされることもあります。
そこで、中耳に液体がたまっていることによる鼓膜の変化を検査します。検査では、鼓膜内視鏡などの器具を使って、液体がたまっているかどうか、鼓膜が薄くなっていないかを調べたり、ティンパノメトリという器具を使って鼓膜の動きが悪くなっていないかを調べたりします4,14) 。
急性中耳炎の治療は、抗菌薬(抗生物質)によって行います。
激しい痛みがあり中耳の中に膿がたまり鼓膜が膨れている場合には、鼓膜の切開手術(鼓膜切開)を行います。
鼓膜切開は、入院せずに行え、鼓膜切開の孔(あな)は、炎症が治まったあとに自然にふさがります6) 。
📖抗菌薬の記事についてはこちらから
📖中耳炎の時に処方される耳の薬についてはこちらから
滲出性中耳炎は自然に治ることもあるため、診断されて3カ月は検査や必要な治療を進めながら様子をみます。
様子をみている間の治療では、カルボシステインという粘液を溶解する作用がある薬を飲んで中耳にたまった液体を出しやすくします。
これと並行して、アデノイドが大きくなっていたり、鼻炎にかかっていたりする場合には、これらの治療を行います。
3カ月たっても自然に治らない場合には、手術が必要になることもあります。
手術では、中耳の液体を出したり中耳の換気を行ったりする目的で、鼓膜に小さなチューブを入れます12,15) 。
急性中耳炎では、家庭で以下のような対応を行います1,5) 。
滲出性中耳炎では、家庭で以下のような対応を行います3) 。
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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