2022.12.07
1. はしか(麻疹、麻しん)とはこんな病気
2. はしか(麻疹、麻しん)の原因と症状
3. はしか(麻疹、麻しん)の検査でわかること
4. はしか(麻疹、麻しん)の治療法と薬
5. はしか(麻疹、麻しん)のホームケアと予防
はしかは、麻疹(ましん)ともいい、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症(伝染病)です1) 。
発熱、せき、鼻水、目の充血などの風邪(かぜ)のような症状で始まり、途中から全身の皮膚に赤いブツブツ(発疹:はっしん/ほっしん)が出ます。
1歳前後の乳幼児がかかりやすい病気ですが、成人がかかることもあります2) 。
非常に感染力の強い病気で、麻疹ウイルスに免疫のない人が感染すると、ほぼ100%発症します3) 。
人の体に入った麻疹ウイルスは、免疫の力を弱めるため、別のウイルスや細菌による感染症(肺炎や中耳炎など)が小児の感染症の中で最も重症化する恐れがあります1,3) 。
一度感染して発症すると、再び感染することはないといわれています4) 。
はしかの原因である麻疹ウイルスは、パラミクソウイルス科モビリウイルス属のウイルスです。
麻疹ウイルスは、熱や紫外線に弱く、空気中や物の表面での生存時間は短いといわれています1) 。
感染経路は、空気感染が主な経路です。
患者さんのせきやくしゃみからウイルスを含んだしぶき(飛沫:ひまつ)が飛散して、それが乾燥して非常に小さな粒(飛沫核:ひまつかく)になって、しばらく空気中を漂い、周囲の人の鼻やのどに入って感染します3) 。
そのほかに患者さんのせきやくしゃみのしぶき(飛沫)に含まれるウイルスを吸い込むことによる飛沫感染、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染でも感染します4) 。
はしかの症状には、潜伏期、カタル期(前躯期:ぜんくき)、発疹期(はっしんき)、回復期の4つの区分(病期)があり、症状も移り変わります。
潜伏期は、麻疹ウイルスに感染してから症状が出る(発症)までの期間で10~12日続きます。
カタル期には、38度前後の熱が2~4日続き、鼻水、せき、めやに、目の充血、倦怠感(けんたいかん)がみられ、小児では機嫌が悪くなり、乳幼児では8~30%に下痢や腹痛がみられます。
赤い発疹の出る1~2日前ごろに口の中の粘膜に白い膨らんだ斑点(コプリック斑:こぷりっくはん)がみられます。
発疹期には、カタル期の熱がいったん下がった半日後ごろに、再び高熱(39.5度以上になることが多い)が出て3~4日続き、赤い発疹がみられるようになります。
回復期には、発疹が出てから3~4日続いた熱も下がり始め、発疹も色があせてきまが、色素の沈着(暗褐色のしみ)がしばらく残ります。
合併症がない限り、発症から7~12日後にはよくなります(図1)1,5) 。
図1:はしかの症状の移り変わり
感染力は、発症してから数日のカタル期が最も強いといわれています1) 。
はしかでは合併症がみられることが多く、主に肺炎、脳炎、中耳炎があります。
肺炎は、患者さんの6%ほどにみられ、乳児の死亡原因の約60%は肺炎によるものだといわれています。
脳炎は、患者さん1000人あたり0.5~1人の割合で合併します。
思春期以降の青年や成人が脳炎になると、乳幼児よりも死亡することが多いといわれています。
極稀に4-10年後に亜急性硬化性脳炎(SSPE)という重症の病気になることがあります2) 。
中耳炎は患者さんの7%ほどにみられ、乳幼児では耳の異常を周囲の人に伝えられないため、耳だれ(耳漏:じろう)が出るまで気づかれないことがあるので注意が必要です1) 。
はしかの診断では、診察によって、① はしか特有の発疹、② 発熱、③ せき、鼻水、結膜の充血などカタル期の症状の有無を調べます。
また、検査によって、咽頭ぬぐい液や血液、髄液や尿の中の、① 麻疹ウイルスの有無、② PCR検査による麻疹ウイルス遺伝子の有無、③ 麻疹ウイルスに対する抗体の有無を調べます4) 。
はしかを治す特別な治療薬はありません。
熱や、目の症状、下痢などの症状を和らげる対症療法を行います。
肺炎や中耳炎のような細菌の感染が原因の合併症には、抗菌薬(抗生物質)が使われます3) 。
はしかは、空気感染するのでマスクや手洗いによる予防は期待できません。
ワクチンによって、麻疹ウイルスに対する免疫をつけることが、唯一の予防方法です3) 。
図2:麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の定期接種の時期
ワクチンを接種していないお子さんが、はしかのお子さんと接触した時には、72時間以内にワクチンを接種すると、発症を防いだり発症しても症状を軽くしたりできる可能性があります5) 。
家庭などでは以下のような対応を行います2,5,6) 。
(1) 高熱が出ているときは、安静にして寝かせます。
(2) 部屋を快適な温度に保ちます。
(3) 氷枕や冷却剤で冷やします。
(4) 食事は制限せず、経口補水液などで十分に水分を補給し、お子さんの好きなもの(アイスクリーム、プリン、ジュースなど)を与えます。
(5) 高熱が落ち着いて元気になったら、入浴できます。
(6) はしかは、非常に体力を消耗させる病気です。登校や登園ができるようになった後も、体力が回復するまでは、プールは控えた方がよいでしょう。
(7) 病院やクリニックを受診する際には、感染予防のため受診方法などを電話で確認してから受診してください。
💡はしかは、学校保健安全法で第2種の学校感染症に定められています💡
熱が下がってから3日間は出席停止とされています1) 。
登園、登校の時期については、主治医の先生にご相談ください。
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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