2023.03.08
牛乳が原因で起こるアレルギーには大きく分けて2つのタイプがあります。
一つは摂取して15分から30分で症状が出る牛乳アレルギー(即時型反応)、もう一つは摂取してから24時間以内に嘔吐や血便、下痢などの消化器症状が出るタイプで新生児・乳児消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)です。
中には両方のタイプが合併する場合もあります。
牛乳のアレルギーは、新生児期に牛乳が原料である粉ミルクを飲む赤ちゃんも多いことから、他の食物アレルギーと比べて発症時期が早いことが多く、牛乳アレルギー(即時型反応)は乳児期(特に生後半年から1歳)、新生児・乳児消化管アレルギーでは生後1週間までに多くが発症します。
いずれのタイプも年齢とともに耐性化(摂取しても症状が出なくなること)しやすく、牛乳アレルギー(即時型反応)は3歳までに6割が、新生児・乳児消化管アレルギーは1歳までに半数以上、2歳で9割前後が症状なく牛乳や乳製品を摂取できるようになります。
今回の記事では牛乳アレルギーについて説明します。
牛乳アレルギー(即時型反応) | 新生児・乳児消化管アレルギー |
・15分から30分で症状が出る | ・24時間以内に嘔吐や血便、下痢などの消化器症状が出る |
・乳児期(特に生後半年から1歳)に発症 | ・生後1週間までに発症 |
・耐性化は3歳までに6割 | ・耐性化は1歳までに半数以上、2歳で9割前後 |
牛乳アレルギーは乳幼児期の食物アレルギーの中でも頻度が高く、鶏卵に次いで第2位です。
牛乳アレルギーの症状は他の食物アレルギーと同様に、じんましんなどの皮膚症状、咳・呼吸困難などの呼吸器症状、嘔吐などの消化器症状、失神、ショックなどがあり、重症の場合はアナフィラキシーショックと呼ばれ、死に至ることもあります。
2012年に給食が原因で11歳の女の子がアナフィラキシーショックになり亡くなるという悲しい事故がありましたが、その時の食材はチヂミの中のチーズでした。
牛乳アレルギーの原因となる主なタンパク質はカゼインであり、熱による変性を受けにくい性質があります。
牛乳アレルギーの症状が出た場合は、その症状と重症度に応じた対応をします。
例えば体の一部のじんましんだけの場合は、抗ヒスタミン薬を内服して様子をみますが、複数の臓器に症状が出るアナフィラキシーの場合には、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)を使います。
牛乳アレルギーのあるお子さんは、かかりつけ医と誤食の時の対応(アクションプラン)について話し合い、誤食に備えることが重要です。
なぜ牛乳アレルギーが発症するのかは、すべてが解明されているわけではありません。
他の食物アレルギーと同じく、牛乳アレルギーも早めに牛乳の成分を摂取した方が、牛乳アレルギーの発症予防になるという研究報告が増えてきています。
日本からの研究もあり、沖縄の約500人の乳児を対象とした研究からは、生後1~3カ月の時に母乳と少量の粉ミルク(10mL以上)を毎日摂取した方が、粉ミルクを摂取しなかった方と比べて、生後6カ月時の牛乳アレルギーの発症が少なかったと報告されています(摂取群0.8%に対して除去群6.8%)。
この研究は母乳栄養に粉ミルクの人工栄養を追加するものであり、母乳育児を否定するものではありません。
ただし牛乳アレルギーの発症予防のために、早期に粉ミルクを追加すべきかについてはまだ研究段階であり、食物アレルギー診療ガイドライン2021では明確な指針は出ていません。
そのほか妊娠中や授乳中のお母さんの乳製品摂取についても、摂取を控えても発症予防の効果は示されていないため乳製品の除去をする必要はなく、バランスのよい食事が重要です。
授乳・離乳の支援ガイドによると離乳の開始は生後5~6カ月が適当とされ、乳製品はヨーグルトやチーズを生後7~8カ月くらいから離乳食に加えるよう記載がされています。
また飲用としての牛乳は、鉄欠乏性貧血予防のため、1歳以降が望ましいとされています。
離乳初期に既に粉ミルクを症状なく摂取できていれば支援ガイドの通りに離乳食を進め、粉ミルクを飲んだことがなければ、少量の粉ミルク(1mLくらい)または乳タンパク質の少ない乳製品から試して徐々に増やすと安全です。
粉ミルクを含む乳製品で症状が出た場合は、医療機関で牛乳アレルギーの診断を受けます。
その際に実際に牛乳を少量摂取して体の反応を確認する食物負荷試験が行われ、診断と同時にどれくらいまでなら摂取しても大丈夫かが分かります。
その結果を基に医師とどの食材をどれくらい摂取できるのか相談します。
その際、乳製品のタンパク質含有率を考慮して、摂取できる乳製品の種類と量も決めます。
乳製品を完全に除去し続けるよりも、摂取可能な量で摂取を続けた方が摂取できるようになるため、できる限り摂取することを目指して定期的に血液検査や食物負荷試験をしながら、摂取可能な量を確認していきます。
また乳製品を控えることで不足しがちな栄養素を補うため、栄養士との相談も重要です。
特にカルシウム不足にならないように小魚などのカルシウム豊富な食品で補うことが大切です。
また乳糖は乳糖不耐症がある場合は注意が必要ですが、カゼインとは違うので牛乳アレルギーがあっても摂取可能です。
💡一方で注意が必要な食品もあります。
特に筋肉増強のために使われるプロテインは、カゼインが成分として含まれており、また食事から摂取するよりも大量のタンパク質が含まれているため注意が必要です。
参考文献
・一般社団法人日本小児アレルギー学会:食物アレルギー診療ガイドライン2021. 協和企画, 2021.
・厚生労働省:授乳・離乳の支援ガイド2019.
・Sakihara T, et al. Randomized trial of early infant formula introduction to prevent cow’s milk allergy. J Allergy Clin Immunol. 2021;147(1):224-232
《執筆・監修》
小島 令嗣(こじま れいじ)アレルギー専門医
防衛医科大学校卒業。
山梨大学 社会医学講座
アレルギー専門医
専門分野:小児科学、アレルギー学、疫学・公衆衛生、母子保健
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