2023.04.01
0. 監修:宮尾益知(みやおますとも)先生コメント
1. 自閉症 とは?
2. 自閉症 の原因と症状
3. 自閉症 の検査でわかること
4. 自閉症 の治療法と薬
5. 自閉症 のホームケアと予防
自閉症とは、自己身体感覚(記憶)が認識できない人たちだと思います。
だからいつも考えていないと、見て理解しないとできない。
ですから、決まったことを決まったようにしないといけません。
また、心の中にもう一人の自分がいません。
そのため、心の中だけで考えることができません。
二枚舌や表裏などもありません。
ですので、人には裏があることや物事の正邪・善悪・是非があることを教えています。
自閉症は、いつも100%でなければいけないと思っている人、ですから100%にしようと周りが考えてしまう社会を生きていくことがとても苦しくなります。
60%で生きるようにしましょう。40%は無視してもよいのです。
60%できていけば、いつか限りなく100%に近づきます。
また自閉症は、脳の働きの違いによって起こるので、親の育て方やしつけ方、妊娠中や出産時の問題が原因ではないことが分かっています1) 。
以前には、自閉症は、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)などと同じ、広汎性発達障害の1つに分類されていましたが2) 、最近では、それぞれの間に明らかな境界線を引けないことから、対人関係の難しさやこだわりなどの自閉症の特徴を持つ障がい全体を1つのスペクトラム(連続体)と捉えようとする考え方に移ってきています(図1)3,4) 。
ですから、障がいの名前も、自閉スペクトラム症(ASD)や自閉症スペクトラム(AS)と呼ばれることも多くなってきています。
図1:自閉スペクトラム症(ASD)の考え方の移り変わり
自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム)の考えでは、障がいの種類や程度の間には明らかな境界線が引けず、
一般の人やほとんど日常生活・社会生活に支障がない人から支障がある人まで、グラデーションのように変化している。
自閉症の人は、約100人に1人いるといわれていて、女性よりも男性に多く、男性は女性の約4倍の頻度だといわれています5) 。
なお、注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害とは、別の障がいであると考えられていますが、自閉症とADHD、不安症、抑うつ、学習障害、てんかんが併存することもあります。
併存とは、ある1つの病気が別の病気(合併症)を引き起こす原因となるのではなく、複数の病気が同時に存在すること状態のことをいい、併存する病気を併存症と呼んでいます。
自閉症の原因は十分に分かっていませんが、先天的な脳の働きの違いが複雑な過程を経て特有の症状を引き起こすのではないかと考えられています
1) 。
また、二卵性双生児より一卵性双生児の方が、いずれもが自閉症になる確率が高いことから、遺伝的な要因があるとされています6) 。
自閉症の症状の程度は、スペクトラム(連続体)と呼ばれているように、社会での生活が困難な程度から、ほとんど社会生活に困らない程度まで様々です(図1右) 3,4) 。
自閉症の症状は、
① 他人に無関心で視線が合いにくく表情が乏しいなどの「対人関係の障がい」
②言葉の遅れなどの「言語およびコミュニケーションの障がい」
③ 同じ手順にこだわるなどの「行動・興味・活動の限定と反復(こだわり)」
がみられます(表1)7) 。
一方、興味のある分野では、すぐれた記憶力を発揮することがあります。
表1:自閉症の主な症状
自閉症は、できるだけ早く気づいて専門家に相談することが大切です。
💡自閉症と気づくきっかけは、成長段階によって異なります💡
乳児期には、抱っこしにくい、抱っこを嫌がる、笑わない、泣き方が激しい、などがあります。
幼児期には、言葉の遅れが目立つ、こだわりが強くて他の子どもとトラブルになる、1歳半健診や3歳児健診で指摘される、入園前健診で指摘される、などがあります8)。
自閉症の診察では、医師や心理士がお子さんの様子を観察しながら、保護者に日常の様子などを聴き取ります。
検査では、自閉症の可能性を調べるスクリーニングツールによる聴き取りや、自閉症の特徴の強さなどを調べる評価尺度・心理検査が行われます。
診断は、これらの結果をもとにして総合的に判断して行います10) 。
自閉症は、先天的な障がいである可能性が高く、また原因も十分に分かっていないため、自閉症そのものを治療するお薬は現在のところありません。
そこで、療育(治療教育)によって、日常生活や社会生活をできるだけスムーズに送れるようにすることが治療目標になります7)。
なお、極端な偏食と便秘で睡眠障害がある場合は、栄養状態の改善としてサプリメント(総合的ビタミンとミネラル特にマグネシウム、B6、B12、乳酸菌製剤など)を使用することがあります。9)
併存するADHDにはメチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシンが、不安症には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やベンゾジアゼピン系抗不安薬が、
抑うつには選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が主治医の先生の判断でそれぞれ処方されることがあります。
療育では、保護者だけでがんばろうとせず、専門家の手を借りながら、お子さんに合ったサポートをすることが大切です。
子どもの発達に関して相談できる公的な窓口や支援機関には、以下のようなものがあります。
自閉症などの発達障害の相談窓口 |
♦発達障害者支援センター 🔗http://www.rehab.go.jp/ddis/action/about/ 発達障害のある子どもから成人までの相談に応じ、助言も行う。 |
♦市区町村の保健福祉センター 乳幼児健診(乳児健診)や母親教室を行い、育児の相談を受け付ける。専門機関の紹介も行う。 |
♦市区町村の子育て支援センター 地域の子育てに関する情報発信や育児相談、子育てサークルの支援などを行う。 |
♦都道府県・政令指定都市の児童相談所 保健相談や発達相談などを行う。 |
♦発達障害情報・支援センター 🔗http://www.rehab.go.jp/ddis/ 発達障害の人の保健、医療、福祉や就労についての情報発信や相談窓口の紹介を行う。 |
♦発達障害教育推進センター 🔗http://cpedd.nise.go.jp/ |
自閉症の療育では、親が子どもに対して、どう接するかがとても重要になります。
トレーニング法やメソッド例としては以下のようなものがあります 11,12) 。
いずれの方法もひとりで行うのはなかなか難しいため、このようなサポートをしてもらえる機関を探してみましょう。
発達障がいは子どもの特性をできるだけ早く見極め、適切な支援をすることが子どもの抱える生きづらさを和らげてストレスを緩和することにつながります。子どもとともに成長するつもりで子どもと接していきましょう。
1) 国立精神・神経医療センターNCNP病院.:自閉症スペクトラム症(ASD). (2023年1月17日閲覧:https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease06.html)
2) 髙橋三郎, ほか(訳).:DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引き 新訂版. 医学書院. pp55-59, 2003.
3) 髙橋三郎, ほか(監訳).:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル 第1版. 医学書院. pp49-57, 2014.
4) 本田秀夫(監修).:自閉症スペクトラムがよく分かる本 第1版. 講談社. pp16-17, 2015.
5) 厚生労働省.:ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について. e-ヘルスネット. (2023年1月17日閲覧:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html)
6) 市川宏伸(監修).:これでわかる自閉スペクトラム症 第1版. 成美堂出版. pp18-19, 2020.
7) 金子堅一郎(編).:1. 自閉性障害. 子どもの病気とその診かた第1版. 南山堂. pp471-475, 2015.
8) 市川宏伸(監修).:これでわかる自閉スペクトラム症 第1版. 成美堂出版. pp26-27, 2020.
9)医療法人社団 益友会 どんぐり発達クリニック(2023年3月閲覧:https://www.donguri-clinic.com/)
10) 本田秀夫(監修).:自閉症スペクトラムがよく分かる本 第1版. 講談社. pp48-49, 2015.
11)宮尾益知(監修).:発達障害を家族で乗り越える本.河出書房新社
12)宮尾益知(監修).:家族で支援する子供のASD、河出書房新社
13) 国立障害者リハビリテーションセンター.:こんなとき、どうする?(2023年1月17日閲覧:http://www.rehab.go.jp/ddis/howto/)
《 監修 》
宮尾 益知(みやお ますとも)小児神経精神科医
徳島大学医学部卒業。東京大学小児科、東京女子医大小児科、自治医科大学小児科助教授、ハーバード大学・ボストン小児病院神経科研究員、国立小児病院神経科、2002年より国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科医長、2014年より発達障害専門のクリニックとして、どんぐり発達クリニック開業、現医療法人社団 益友会理事長、ギフテッド研究所理事長、白百合女子大学発達臨床センター顧問、翔和学園顧問、株式会社Kaienアドバイザーなど。
▶HP https://www.donguri-clinic.com/ 医療法人社団 益友会 どんぐり発達クリニック