2024.02.19
1. ADHD とは?
2. ADHDの原因と症状
3. ADHDの検査でわかること
4. ADHDの治療法と薬
5. ADHDのホームケアと予防
また、子どもの性格によるものでもなく、考え方を変えれば解決できるものではありません。
子どもが大人になるまでの間に、必要な発達の段階がありますが、この段階をクリアできない場合(生活面での支障が出る場合)、発達障がいと考えます。
今回は、発達障がいの一つであるADHDについて解説します。1,2)
ADHDは、自分の行動をコントロールすることが苦手な特性のある、発達障がいの一つです。
注意欠如・多動障害、注意欠陥多動性障害などとも呼ばれます
3,4) 。
「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの基本的な特性があり、子どもは学習や生活の上で困ることが多くなります。
このような特性は、遅くとも小学校に入る前に目立ってくるようになります1,2,3) 。
ADHDは、精神の病気ではなく、理解行動する過程(認知)に問題がある状態だと考えられています1,2) 。
図1:発達障害に含まれる障害5)
*併存:ADHDの原因と関連がある障害がADHDと一緒に現れることをいいます。
合併:ADHDの影響で、二次的にADHDとは別の障害が一緒に現れることをいいます4) 。
ADHDの子どもは14人から20人に1人(7%~5%)にみられ3) 、成人でも2.5%程度にみられるといわれています。
ADHDが、親のしつけや本人の性格から表れる障害ではないことを、家族や本人が理解することがとても大切です。
また、先生や保護者などに叱られることが積み重なり、「自分はどうせダメな子」というように、自己評価や自己肯定感が低くなる傾向があります。
学校や家庭でほめられる体験を増やすことで、自己評価や自己肯定感を高めてあげることが大切です6) 。
ADHDに関係のある神経伝達物質は、ドーパミンとノルアドレナリンです。
これらの神経伝達物質が、脳の前頭葉(ぜんとうよう)という器官でうまく働かないと、集中力の維持、感情の抑制、行動の計画、思慮深さ、学習や理解、行動する過程(認知)などに弱さがみられるようになります8) 。
ADHDの子どもの行動上の特徴(行動特性)は、うっかりミスが多い、忘れ物が多い、整理整頓が苦手などの「不注意」と、じっとしているのが苦手、落ち着かない、待つのが苦手などの「多動性・衝動性」に大きく分かれます(表1)1,6,7) 。
表1 ADHDの子どもの行動特性・困っていること1,6,7)
特性 | 特性・困っていること |
---|---|
不注意 | 注意散漫で物事に集中しにくく、忘れやすい ・忘れ物が多い ・周りからの刺激に気を取られて気が散る ・早合点によるうっかりミスが多い ・周りに注意を向けるのが苦手のため事故やけがにつながりやすい ・集中力の維持が難しい、単調な作業や根気のいる課題などに長時間取り組むのが苦手 ・部屋を片付けたり整理整頓をしたりするのが苦手 |
多動性 | 無意識に体を動かしたりじっとしていられない、静かにしていなければならない場面でしゃべってしまう ・授業中椅子に座っていられず、フラフラ席を離れる ・貧乏ゆすりをする ・公共の場で、走り回ったり大声でしゃべったりする。 |
衝動性 | 思いついたことをすぐ行動に移す。 やってはいけないことだと分かっていても、判断する前に即座に行動してしまい、ブレーキをかけられない ・思いつくとすぐ行動する ・気にさわることを言われたりやられたりすると、瞬間的(反射的)に暴言や乱暴な行動で反応してしまう ・遊びやゲームなどで勝ちたいという思いに突き動かされて、ルール違反をしてしまう ・並ぶのを忘れて割り込んでしまう ・刺激に反応してエンジンがかかったように走り回る |
また、ADHDは、「不注意」「多動性」「衝動性」のうちのどの行動特性が強く表れるかによって、「不注意優勢型」「多動性・衝動性優勢型」「混合発現型」の3つのタイプに分かれます(表2)7) 。
表2 ADHDの子どものタイプと行動特性7)
タイプ | 特性 |
---|---|
多動性・衝動性優勢型 *「多動性・衝動性」が目立つタイプ |
・おしゃべりがやめられない ・落ち着きがなくじっとしていられない ・カッとなりやすい ・順番を待てない ・男の子に多い傾向がある |
不注意優勢型 *「不注意」が目立つタイプ |
・集中できない ・話を聞いていないようにみえる ・忘れ物が多い ・周囲の刺激に気を取られやすい ・ものをなくしやすい ・女の子に多い傾向がある |
混合発現型 *「不注意」「多動性・衝動性」の両方がみられるタイプ |
・「不注意」「多動性」「衝動性」の両方の行動特性がみられる ・ADHDの約8割がこのタイプ |
このような特有の行動特性が原因で学習や生活に支障をきたすと、本人は生きづらさを感じることになります1,8) 。
この生きづらさなどが原因となって、かんしゃくや大人に対して挑発的な態度を取る(反抗挑戦性障害)、不安障害やうつ病、素行の障害(他人への暴力など)といった二次的な合併症が表れることもあります8) 。
その一方で、ADHDの傾向のある人の中には、普段は不注意が目立つが大事な場面で高い集中力を発揮する、多動性が「高い活動性・積極性」として表れる、衝動性が「優れた決断力、発想力」として表れるなどにより、社会で活躍している人もおられます3) 。
単独で確実に診断できるような検査はありません。
ADHDの診断では、アメリカ精神医学会(APA)のDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)9) の診断基準が主に使われています。
主な基準は、①「不注意」「多動・衝動性」が同程度の年齢の子どもと比べて何度も強く認められる、②障害のいくつかが12歳以前から認められる、③家庭、学校、その他の活動などの2つ以上の場所で障害となっている④発達に応じた対人関係や学業の機能に支障がある、などです10) 。
ADHDの診断では、現在の子どもの状態だけでなく、出生歴やこれまでの養育歴が参考になります。
初めての診察(初診)時には、健診結果、母子健康手帳、育児記録、通知表や子どもが書いた字が分かるノートなども参考になるので初診時には持って行くとよいでしょう(表3)11) 。
初診時には、問診のほかに子どもの心身の発達度を調べる検査を行うこともあります。
こうした検査は、ほかの病気や障害との鑑別、併存症や合併症の有無を調べるうえで役立ちます11) 。
表3 初めて診察を受ける時に持って行くとよいもの11)
悩んでいる場合は、かかりつけの小児科や公的な相談機関を訪れてみましょう。
診断がつくことで、子どもの行動や考え方への理解を深めるきっかけとなり子どもを認める機会にもなります12) 。
また、あくまで病気ではなく、「認知機能に障害があり、社会的にハンディのある状態」ですから、医師1人が治療して治せるというものではありません。どのようにフォローしていくか、どんな対応がその子に合ってているかなどは、親、教育関係者、医師などのさまざまな関係者が集まって、導き出されるものです12) 。
そのうえで、治療には、心理社会的治療と薬物療法の2つがあり、心理社会的治療には、①環境変容法(かんきょうへんようほう)、②行動療法、③ペアレントトレーニングの3つがあります。
これらの治療方法を4本柱として、ADHDの子どもをサポートします(図2)6,11) 。
図2:ADHD治療の4本柱6,11)
治療の基本は、家庭生活での取り組みです。子どもの特性に合わせた環境を生活の中で整えることが効果も大きいと言えます12) 。
ADHDの子どもの障害が出にくい環境を整え、障害が出やすい刺激を少なくします。
例えば、教室では教室の席は窓や廊下から離す、子ども部屋では棚の中身が見えないようにカーテンなどをつる、学習机はできるだけシンプルにする、などです。
子どもの行動のうち、好ましい行動に報酬を与え、減らしたい行動に対しては過剰な叱責をやめて報酬を与えないことで、好ましい行動を増やそうという試みです。
適切な行動の積み重ねをトレーニングしていくことによって、自分のコントロール方法を学んでもらいます。
行動療法では、ほめることや「ごほうび」がポイントになります。
よいことを一つしたら、時間を空けずにほめたりハグしたりします。
また、ごほうびとして、おやつやおもちゃを用意する、ゲームなどの好きなことができる時間を作るなどもよいでしょう。
一方、ADHDの子どもは自己肯定感が低いので、しかったり、罰を与えたりすることはできるだけ避けるようにします。
ADHDの子どもにどのようにかかわっていけばよいかを、専門家から学び、実践訓練を行います。
子どもの障害や親子関係の改善が期待でき、保護者のストレスも軽くなると考えられています。
ペアレントトレーニングは、発達障害の親の会や家族会、発達障害の専門外来がある医療機関、大学の研究センター、子育て支援センターや保健センターなどの行政機関で行っています。
メチルフェニデート(商品名コンサータ)、アトモキセチン(商品名ストラテラ)、グアンファシン(商品名インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(商品名ビバンセ)の4剤が、ADHDの治療薬として保険が使えます。
メチルフェニデートはドーパミンの働きをよくする作用があり、アトモキセチンとグアンファシンにはノルアドレナリンの働きをよくする作用があります。
また、リスデキサンフェタミンには、ドーパミンとノルアドレナリンの両方の働きをよくする作用があります。
4剤とも作用が異なるため、一つの薬の効果がなかったり副作用が起こったりした場合には、別の薬に切り替えます。
障害のある子どもを支援する公的機関やサービス制度があります。
そのような機関や制度を利用して、できる限り保護者や家族の負担を減らしましょう。
参考:障害のある子どもを支援する公的機関
6) 金子堅一郎(編).:2. 注意欠如多動性障害(ADHD). 子どもの病気とその診かた第1版. 南山堂. pp476-479, 2015.
7) 榊原洋一.:最新図解ADHDの子どもたちをサポートする本初版. ナツメ社. 1章・pp20-23, 2019.
8) 榊原洋一.:最新図解ADHDの子どもたちをサポートする本初版. ナツメ社. 2章・pp40-49, 2019.
9) 日本精神神経学会(監修).:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル第1版. 医学書院. pp58-60, 2014.
10) 厚生労働省eヘルスネット.:ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療
(2023年10月18日閲覧: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html )
11) 榊原洋一.:最新図解ADHDの子どもたちをサポートする本初版. ナツメ社. 3章・pp56-61, 2019.
12) 宮尾益知.:子どものADHD早く気づいて親子がラクになる本 (親子で理解する特性シリーズ). 河出書房新社. 4章・P66-81, 2016
《 監修 》
宮尾 益知(みやお ますとも)小児神経精神科医
徳島大学医学部卒業。東京大学小児科、東京女子医大小児科、自治医科大学小児科助教授、ハーバード大学・ボストン小児病院神経科研究員、国立小児病院神経科、2002年より国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科医長、2014年より発達障害専門のクリニックとして、どんぐり発達クリニック開業、現医療法人社団 益友会理事長、ギフテッド研究所理事長、白百合女子大学発達臨床センター顧問、翔和学園顧問、株式会社Kaienアドバイザーなど。
▶HP https://www.donguri-clinic.com/ 医療法人社団 益友会 どんぐり発達クリニック