はぐふる対談vol.2「家族ができる産後のメンタルケアとは？」【助産師監修】

そうですね。
実際に現場でいろいろな方の様子を見ていると、産後の鬱が心配になる人はいます。

産後はホルモンのバランスが急激に変動し、笑っていたと思ったら突然泣き出すなど、一気に気分が落ち込むことがあります。
このホルモンの影響が結構フューチャーされていましたが、これだけが原因になるというわけではありません。
身体的な疲労が大きな要因となります。
 
産後うつはホルモンの影響だけで急に発症するのではなく、疲労が蓄積された状態から徐々に現れます。
前提として、産後は身体的に非常に疲れていて、ほとんどの方が睡眠不足になります。

妊娠中は自分の体に子どもが収まっているので、身一つで、おなかが大きいながらも仕事や家事をこなしていたかもしれません。
それを、産後は子どもがいる状態（おなかから出てきた状態）で、“万全でない体調の中、自分の生活をしながら子どものお世話をする”という生活にシフトしていく必要があります。

そうですね。
昔は、親戚やごきょうだいの手助け、近所の人々の協力がある環境の方も多く、妊娠期→産後へのスライドはそこまで困難ではありませんでした。
しかし、現代は核家族化が進み、共働きでワンオペ、近隣住民との関係希薄化といった手助け環境が少ない状況にいる方が増えました。
それはもう、体は究極に疲れるし、夜間の授乳などにより睡眠不足になりますよね。
はっきり言って、本当に大変な状況です。
いつも思うのですが、子育て中のパパママは本当すごいことやってるので自信をもってほしいです。笑

例えば、いくら本を読んで赤ちゃんが泣くことを事前に知っていても、実際こんなに泣くなんて思ってないわけじゃないですか。
私たち助産師は慣れていますが、お母さんたちにとっては初めて見る自分の子どもですから。こんなに泣くのはおかしいのかしらとか、おっぱいを飲んでも寝ないのはなぜだろうとか、次から次へと課題が現れるので大変です。
今日このやり方でうまく寝かせたと思ったら、次の日には全然寝てくれないこともありなかなか思い通りにはならないもので、1+1=2のような明確な答えがない状況に置かれています。

前置きが長くなってしまいましたが、そのような疲労がたまると、まず「肩こりがひどくて…」といったように身体症状としてうったえが出てきます。
その時に疲労が回復できれば良いのですが、身体の症状が長引き、疲労が蓄積され痛みが続いていくと、今度は顔の表情が変わってくることがあります。
笑顔が減っていくんです。
もちろん、毎日笑わなければならないということではありませんが、表情が全般的に乏しくなるというフェーズが存在します。

 

 

最初のフェーズの、痛みや悲しみなど、ネガティブな感情や身体の不調を表現できることは健全なことです。笑っていなかったらみんな鬱だというわけではありませんが、心の疲労が進むと表情に表れてきます。
人によっては、ずっとヘドロの海にいるような感じと表現する方もいます。

 

なので、そうなる前に、家族ができることは「本当に休ませる」です。
休息やリラックスができる環境を整えます。
自分が面倒を見なければ…と切羽詰まってしまっていた場合、無理矢理にでも寝るとか休むという環境をぜひ作ってほしいですね。
これが非常に重要です。

産後の訪問などで、産後うつのチェックにエジンバラ産後うつ病質問票（質問用紙）が使用されます。つらさについて記載をする項目もありますが、本当に心の状態が落ち込んでいる人は、本当のことを書かないことがあります。

はい。
本当につらい人は「つらい」がなかなか言えないことがあります。
産後の女性は本当に頑張ってしまうので、周りが環境を整えていくことが大切だと思います。
本当に厳しい言い方をするとしたら、赤ちゃんのことを考えているなら、まずは疲労を緩和することが、赤ちゃんの世話をすることにつながると思ってほしいです。
お母さんやお父さんが良い状態で育児ができるってことですから。

自分以外の人に任せて大丈夫かなっていう不安からくるものですね。
生物的な感覚かと思います。子どもと親を引き離すと、子どもを守ろうとして気が立つといいますか。

 

ケアセンターでもよくありますよ。
夜預かってくださいと頼んできても、やはり気になって眠れず見に来るお母さんもいます。
その場合、私たちはお母さんが疲れないようにしたいので、気になって眠れないなら一緒にいていいけど、オムツ交換とか、着替えの準備とかも私たちがやるから、赤ちゃんと一緒にいても本当におっぱいあげるだけとかにしましょうねってお話をします。

一生懸命に子育てをしているお母さんの中には、夫や両親などに負担をかけないように、という思いを持っている方も多いです。
そういった場合、他人の方が楽だということもありますので、その場合は専門家や外部のサポートを利用してみるとよいと思います。

 

海外のお話をすると、諸外国、特に欧米は大人中心の社会なんですよ。
西洋の文化では、例えば、夜にパーティーに行くために子どもを預けたりすることがあります。
しかし、これは子どもに対する愛情がないという意味ではなく、子どもも大切だけれども、自分たちの大人の時間も大切にするという考え方があるということです。
日本では子育てが優先される傾向があります。

そうですね、個人的な意見ですが、両方がバランスよく成り立つことが一番良いですよね。
日本だと預けることに対して罪悪感を持つ方もいらっしゃると思います。

私はそう思ってしまう人に伝えたいのは、「子どものために預けてみませんか」ということですね。
預けて体力を回復している間に、子どもが他の人々と触れ合うことは、発達や人間性の形成にとっても財産になると思います。
ママたちもそういう風に感じてもらえるとよいですね。

産後うつからもう話は壮大になってきて。笑

簡単にできるものではないですが自分のやり方や価値観を手放すことも学習していく必要があると感じます。

手放せないと感じたり、離れられないと感じたり、そういう自分がダメという話ではないです。
 
どんなに頼ってほしいと周りがいっても、本人が納得しないと頼ることは難しいですよね。
でも、そんな時、本当に体調が悪い状態だからこそ、一度“預ける”を挑戦してみる。
 
ちょっと預けてみる。5分後やっぱり信用できないから赤ちゃんを返してもらう。
でもやっぱり体調が悪いので今度は10分預けてみる。
10分経ったらすぐに赤ちゃんを返してもらう、といったように挑戦を繰り返していると、途中で気付けることがあると思うんですよ。
預けてみたら、少し腰が楽になったとか、離れているとやさしい気持ちで子どもにも接していくことができるとか。人って頼っていいんだっていうのを体で学習していくイメージです。
 
ダメって思ったら、すぐやめればいいんですよ。
そうやって、今までの自分のやり方とか、価値観をちょこっとずつ手放していくと、実は案外休息の時間が取れるようになってきたりします。

そうです。
最初 1 日預けるのはハードルが高いと思う方は、30 分だけ誰かに預けてみるとか、離れてみるとか、そういうことを少しずつ、少しずつ増やしていくといいかなと思いますね。
 
産後ケアセンターでも、はじめは部屋で自分が見ますと言っていらっしゃっても、人間関係が少しずつ築けていくうちに、本人も疲れてきているので、一晩だけでもいいですか？と頼んでくることがあります。そこから毎晩お願いするようになることもありますから。
案ずるより産むが易しですよ。

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