【Vol.01】「 産前産後ケア センター」はどんな場所?【助産師インタビュー記事】
【監修】助産師:濵脇文子先生(産前産後ケアセンターヴィタリテハウス 施設長)
出産した病院を退院し、すぐに自宅に帰るのではなく、産後ケアを受けられる施設に滞在する方が少しずつ増えています。
産後ケア施設の利用に補助が出る自治体も。
最近では、産後だけでなく産前から利用できる「産前産後ケアセンター」も登場しています。
神奈川県にある「🔗産前産後ケアセンターヴィタリテハウス」施設長の濵脇文子先生に、産前産後ケアの必要性、そして産前産後ケアセンターがどのような場所なのか教えていただきました。
〈親しみやすい人柄で多くの妊婦、経産婦をサポートする濵脇先生〉
産後すぐのお母さんは、養生しながら育児を学ぶ場所が必要
――「産前産後ケアセンター」について、耳慣れない方もいると思います。どんなことをする場所なのでしょうか?
濵脇
出産で赤ちゃんが体の外に出た後、女性の体はすぐ元に戻るわけではありません。
赤ちゃんを育てていた胎盤も体外に出て、手術を受けたのと同じように体はダメージを受けていて、元に戻るのに2カ月はかかるといわれています。
――手術を受けたのと同じダメージなら、自分の体の治療に集中したいところですが、出産後は赤ちゃんのお世話もありますよね?
濵脇
そうなんです。
出産直後の全身ボロボロの状態でいきなり新生児のお世話をすることになります。
ですが、産後のお母さんには体を休めて元に戻すための「養生」をしながら、育児に慣れていってもらいたい。
産前産後ケアセンターはそのためのサポートが受けられる施設です。
〈「ヴィタリテハウス」は館内にアート作品も〉
――具体的にどのようなサポートが受けられますか?
濵脇
産前産後ケアセンターには、助産師をはじめ、さまざまな専門家がいるので、お母さんが疲れてゆっくり休みたいときには赤ちゃんをお預かりすることができます。
施設内に宿泊することが多いですが、日中だけサポートを受けて自宅に帰る場合もあります。
栄養バランスの良い食事の提供があり、沐浴指導や授乳のお手伝いなど育児に慣れるためのサポートや、母子の健康状態チェックなどもあります。
施設によっては、家族と一緒に滞在できるお部屋が用意されていたり、ネイルケアなど美容ケアが受けられたりもします。
〈パートナーや上のお子さんなどと一緒に家族で滞在する人も〉
――「産前ケア」というのはどのようなことをされているのでしょうか?
濵脇
産後はフィジカルなケアがメインになりますが、産前はエデュケーションがメインになり、出産から産後にかけて、どのようなことが起きて、お母さんの体や心がどのような状態になるかをお伝えしています。
産後ケアに訪れた方から「もっと早く知っておきたかった!」というお声も聞くので。
それから、パートナーと一緒に、どんな親になっていきたいかのイメージを膨らませたり、育児の役割分担について相談したり、そういった作戦会議も行います。
社会全体で担う子育てを産前産後ケアセンターがサポートする
――出産を控えた妊婦さん、産後のお母さんにはとてもありがたい場所ですが、どうして最近になって「産前産後ケアセンター」が登場したのでしょうか?
濵脇
今の日本は、お父さんの育児参加も増えてきましたが、「子育ては母親が中心になってするもの」という意識もまだ根強いですよね。
でも、歴史的にみると、以前は日本でもおじいちゃんやおばあちゃん、親戚のお姉さん、近所のおじさんおばさんなど、親以外のいろいろな人が関わって子育てが行われてきました。
それが、ここ半世紀くらいで「母親がするもの」となってきて、育児中の母親の孤立が問題視されるようにもなりました。
――核家族化が進んで、同居する「家族」は親と子の2世代が中心であるため、家族だけだと、どうしても親だけが子育てをすることになりますよね。
濵脇
そうなんです。
これまでの家族の機能を社会全体で担っていくために産前産後ケアセンターが生まれたのです。
最初は、日本と同じように少子高齢化が進む韓国で登場しました。
日本では約10年前から知られるようになり、近年施設も増えてきました。
孤独を感じるお母さんたちが共感し、励まし合う「お母さん合宿所」
――赤ちゃんのお世話のやり方は、産後の入院中に習ってできるようになるものではないのでしょうか?
濵脇
先ほどお話したように、昔の日本では、自分が子どもを持つ前から親戚や近所の赤ちゃんの面倒を見る機会もあったのではと思います。
ですが、最近ではわが子が“初めてお世話をする赤ちゃん”という人がほとんどですよね。
やったことも見たこともないことができるようになるには、練習が必要だと思うんです。
産後入院中にも助産師が教えてくれるでしょうが、時間も短いですし、何より出産直後で母体は満身創痍。
負傷した状態では頭に入りきらないでしょう。
まして首もすわらない小さくはかなげな赤ちゃんのお世話は、元気な状態の人でも神経を使うものです。
――周囲からの「お母さんになったのだから、子育てできるでしょ?」という無言の期待もあるように思います…。
濵脇
一番頼りたい存在であるパートナーからそう言われてしまうこともありますよね!
お母さんは、赤ちゃんがおなかに宿ってから出産までの間に、少しずつ母親になる気持ちの準備はしていると思いますが、赤ちゃんが生後1週間なら、母親歴も1週間なんですよ。
さらに産後は女性ホルモンも不安定になって、理由もなく涙が出たりします。
そんな状態で「お母さんになったからできるでしょ?」なんて言われるのは、かなりつらいと思いますよ。
――どんなことでも1週間で完璧にマスターするのは難しいですよね。
濵脇
そうですね。
そういう意味では産前産後ケアセンターって「お母さん合宿所」みたいな雰囲気でもあるかも(笑)。
赤ちゃんが生まれて間もないときの母親って孤独なんですよ。
まだコミュニケーションもままならない赤ちゃんにずっと向き合っているので、自分の気持ちを分かってくれる大人と喋りたい気持ちが強い人も多いです。
「うちの子、全然寝てくれないんです!」「分かる分かる!」と共感し合うことでお互いをエンパワーメントできるような、そんな関係性ができるのも産前産後ケアセンターの良さですね。
〈産前産後のお母さんへの惜しみない愛を感じます〉
産後いつでも「大変!」と感じるときに訪れてほしい
――利用されるのは、産後入院を終えてすぐの方が多いのでしょうか?
濵脇
そうですね。
ショートステイでは出産後入院していた病院を退院されて、そのまま1週間から10日宿泊される方が多いです。
医療から生活に移行していくための場所というのが産前産後ケアセンターの役割なのだと思います。
ただ、ある程度月齢が進んでから利用される方もいらっしゃいます。
――産後しばらくたってからだと、どのくらいの月齢の方が多いですか?
濵脇
産後すぐの時期は、産後ハイのような状態になって乗りきれてしまうという方もいるのですが、それがドンと落ちるのが生後2カ月ごろです。
ずっと細切れ睡眠が続いていて、体力が限界を迎えて「とにかく寝かせてほしい」といらっしゃることも。
それから夜泣きがひどくなる生後6、7カ月くらいの方が「2泊3日でいいから泊まらせてほしい」とご連絡いただくことも多いです。
産後すぐが一番大変なイメージがあるかもしれませんが、それぞれの大変さがあります。ですので、どちらが大変か比べるものでもありません。
新しい「家族」の誕生サポートも産後ケアのひとつ:ヴィタリテハウスで行っている事
――ヴィタリテハウスの特徴はどのような点でしょうか?
濵脇
産後すぐではない産後ケアの利用として、「職場復帰応援プラン」という復職に向けたデイケア(日帰り)プランを始めました。
体を休めていただきながら、復職に向けた不安について助産師と保育士がお話を聞きます。
ほかには、産前におなかの上から赤ちゃんに触れるマタニティベビーマッサージや、産後のお母さんに必要な栄養についてお伝えするランチ会、歯科医師や助産師による赤ちゃんの「お口育て」をお伝えするセミナーなど、さまざまな講座も企画しています。
〈「お口育て」セミナーに集まったお母さんと赤ちゃん〉
――マタニティベビーマッサージはどのような講座ですか?
濵脇
産前のマタニティベビーマッサージは、おなかの上から自分の体と赤ちゃんに触れてコンタクトをとってもらうものです。
ただ、お伝えしたいのはマッサージのノウハウよりもどんどん体が変わっていく妊娠期にこそお母さんが自分の体に意識を向けて、母親になる体を作っていってもらうのを目的にしています。
――赤ちゃんの「お口育て」セミナーについても詳しくお聞きしたいです。
濵脇
食べること、寝ることは、どんな人であっても一生行っていくものですよね。
食べるのにまず必要になるのが「お口」で、ただ口を動かせればいいわけではなく、唾液も出せるようにならないといけないし、味覚も育てていかないといけません。
単に離乳食の進め方をお伝えするのではなく、「食べる」ためにはどのようなところを育てていく必要があるのかを知っていただくセミナーです。
〈セミナーでは子育てで知っておきたい情報を聞く機会に〉
まとめ:産前産後ケアセンターは医療とは違う「命を育む場所」
体をしっかりと休められ、必要な栄養を取れる環境は、産後に必ず必要!
それだけでなく、赤ちゃんの育ちについて専門家から学ぶことができる産前産後ケアセンターは、
赤ちゃんを含めた家族の健やかな成長に必要な「命を育む場所」です。
《 監修 》
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濵脇 文子(はまわき ふみこ) 助産師
大阪大学大学院医学系研究科招聘准教授。
助産師・保健師・看護師。
産前産後ケアセンターヴィタリテハウス施設長。
はぐふるアンバサダー。
妊娠から産後まで、一人一人に寄り添い幅広くサポートを行う。
また、自治体や企業とマタニティーソリューションの事業構築や講演・執筆活動、専門職の教育研究にも携わる。
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