【Vol.05前編】「 夜尿症 」ってどんな病気?小学生になっても続くおねしょ。宿泊行事が心配…。【医師監修】
【監修】小児科医:久保田亘先生(二子新地ひかりこどもクリニック院長)
トイレトレーニングが完了した子どもが、たまにおねしょをしてしまうのは決して珍しいことではありません。
ですが、たびたび繰り返す場合や、就学後も続くようだと、心配になりますよね。
子どもの腎臓内科を専門的に学び、二子新地ひかりこどもクリニックで「夜尿症」の治療を行っている久保田亘先生に、原因や治療についてお聞きしました。
〈夜尿症の治療にはメンタルも大きく関わると話す久保田先生〉
膀胱機能の未熟さ、抗利尿ホルモンの働きのほか生活習慣も原因に
――「おねしょ」と「夜尿症(やにょうしょう)」は違うものでしょうか?
久保田
夜、寝ているときにたまったおしっこが出てしまう症状を「おねしょ」といいます。
5歳を超えても、月に1回以上のおねしょが3カ月以上続く状態を「夜尿症」といいます。
――どのようなきっかけで受診する人が多いですか?
久保田
小学生になってもおねしょが治らないという理由で受診する方が多いです。
高学年になると学校やスポーツクラブで宿泊を伴う行事が出てくるので、それに向けて本人やご家族が心配になり相談が増えます。
また、5歳児健診でおねしょについて相談されることも比較的多いです。
――夜尿症が自然に治ることはあるのでしょうか?
久保田
8歳くらいまでは自然に治ることもあります。
9~10歳になると自然治癒率がかなり下がってしまうので積極的に治療を行った方がいいでしょう。
治療の仕方や本人と家族の取り組み方で、比較的早く治りやすい病気です。
――どのようなことが原因で夜尿症が起きるのでしょうか?
久保田
膀胱機能や尿を濃縮するホルモンの働きに原因がある子もいますが、生活習慣に原因があることも少なくありません。
便秘が原因という場合もあります。
便秘があると膀胱が圧迫されて広がりにくくなり、夜間におしっこをためておけず漏れてしまうのです。
夜間にたくさん水分を取るのが原因になることもあります。
夕食から寝るまでは200ccくらいの水分量と指導しています。
また、食事の時間や内容も重要です。
夕飯でたくさんおかずを食べると、タンパク質や塩分を多く取ることになります。
塩分の取りすぎは、のどが渇きやすく水分を多くとる原因になります。
そして、摂取した体内に不要な塩分はおしっことして体の外に出ていきますが、その際に水分を引きつけてくるので尿量が増えます。
夜食べる量を少なめにしたり、夕飯の時間を少し早めてもらったりします。
――なぜ夕飯の時間を早めるといいのですか?
久保田
食べたものや飲んだものが尿になるのが、口に入れてからだいたい2~3時間後からです。
20時に夕飯を食べ終わって、21時ごろ寝るとなると、だいたい22時や23時におしっこがたまってくることになります。
そのときに熟睡していると、漏らしてしまいます。
夕飯の時間を早めにすると、寝る前におしっことして出しておくことができます。
――生活を見直すだけで、夜尿症が改善することもあるのですね。
久保田
夜尿症で受診する子たちには、「夜尿日誌」を付けてもらいます。
夜寝るときにおむつを着けているなら、朝起きたときにおむつの重量を測ります。
おねしょをしていても起床後にはトイレに行っておしっこをしてもらい、量を測ってもらっています。
それらを足すと夜寝てから朝起きるまでに作られたおしっこの量が分かります。
その量が多い時には「寝る前に水分を取り過ぎだね」と、原因が分かってくるのです。
――生活習慣以外の夜尿症の原因について詳しく教えてください。
久保田
私たちの体では、おしっこの量を少なくする抗利尿ホルモンが夜間に多く分泌され、寝ている間は尿量を少なくしています。
そのホルモンの働きが弱いと、寝ている間にたくさん尿が作られて漏れてしまいます。
また、おしっこをためる膀胱の容積が小さいために漏れてしまうこともあります。
主にはその2つが夜尿症の原因になりますが、ほかに腎臓の働きに問題があったり、隠れている病気があったりしないかは最初に受診されたときにチェックします。
必ず尿検査をして尿の塩分濃度や抗利尿ホルモンの働きなどをチェックし、必要があれば血液検査もします。
――夜尿症に隠れている病気にはどのようなものがありますか?
久保田
尿崩症(にょうほうしょう)という病気があります。
脳腫瘍などが原因で抗利尿ホルモンの分泌に異常が起きる病気で、夜間だけでなく日中もたくさんおしっこが作られ、頻繁にトイレに行くようになります。
夜間も多尿になるので、トイレに行っても熟睡していると漏れてしまうことがあります。
ほかにも水分をたくさん飲むようになるという症状があります。
夜尿症の主な治療は服薬とアラーム療法
〈親にも子どもにも無理のなく効果が出やすい治療の提案を心がけている。〉
――夜尿症にはどのような治療がありますか?
久保田
治療は、主には薬の内服とアラーム療法です。まずは夜尿日誌を用いて夜尿症の原因を見極め、本人や家族の希望も聞きながら治療法を決めていきます。
膀胱がしっかり広がらないために漏れてしまう(過活動膀胱がある)子はアラーム療法が効きやすいですが、抗利尿ホルモンの働きが弱くて夜間多尿になる子は薬の内服も併用したほうがよいことも多いです。
過活動膀胱と夜間多尿の両方が原因になっていることもあるため、内服から始めて経過をみることもありますし、薬とアラーム療法を最初から併用することもあります。
アラーム療法で開始し、効果が乏しい場合に薬を追加することもあります。
――夜尿症の原因によって指導方法が異なるのですね。
久保田
夜尿症の原因や子どもの年齢、ご家族の希望などさまざまな条件により治療を選択します。
何よりも「よくなっている」という実感がないと治療を続けるモチベーションになりませんよね。
主治医は原因をしっかりと見極めて、少なくとも3カ月くらいで効果が出る治療法を見つけることがとても大事だと思います。
――アラーム療法はどんな治療でしょうか?
久保田
専用のおむつにセンサーをセットした状態で就寝し、センサーが尿を感知すると枕元に置いておく受信機から音やバイブレーションによるアラームが出て排尿を知らせてくれるものです。
アラームが鳴ると神経が反応しておしっこが一時的に止まります。
おねしょをしていても、すべて尿が出ているわけではなく、膀胱内にまだ尿が残っているため、その時点では起こして排尿を促すようにします。
本人が起きてトイレに行くのが理想ですが、熟睡していて起きない場合もあり、ご家族に協力してもらい、本人を起こしてもらうことも必要になります。
0~1時ごろにアラームが鳴っていた子が、そのうち3~4時に鳴るようになり、やがて早朝までおねしょをせずに眠れるようになっていきます。
――アラーム療法の機械を嫌がったり、怖がったりする子はいないのですか?
久保田
怖がる子はあまりいません。
センサーに付いている金属の部分が肌に当たってかぶれてしまいアラーム療法ができなかったケースはありましたが、まれです。
以前はセンサーとアラームが出る受信機とがリードでつながっていて、寝返りしたときに外れてしまうことがあったようですが、当院ではセンサーと受信機がワイヤレスになっているものをご紹介しているため、そのような問題も起きません。
――夜間、決まった時間に起こしてトイレに行かせるのはどうでしょう?
久保田
決まった時間に起こしてトイレに行かせることは夜尿症の改善にはつながらないといわれています。
毎晩起こすのは家族の負担にもなり、本人も寝不足になるので、夜尿症治療の中でお願いすることはありません。
アラーム療法は、あくまで「漏れたとき」に鳴るので、漏れないときは家族も本人も寝ていられます。
膀胱機能が不安定な子は毎日不安定なわけではなく、疲れや気温によって変わることがあり、漏れない日もあるのです。
漏れた日だけ対処すればいいのもアラーム療法のメリットです。
アラーム療法はアラームが鳴った時に家族も起きる必要があることと、効果が出るまで6週間程度時間がかかることがあるので、ある程度の効果の見通しをご説明したうえで治療を開始します。
――治療の費用負担は大きいのでしょうか?
久保田
診察と薬は夜尿症の治療であれば、健康保険の範囲内になります。
アラーム療法の機器レンタルと専用のおむつは自費です。
アラーム療法は効果が出るまで時間が少しかかることがあるので、「まずは1カ月頑張ってみましょう」と説明して始めていきます。
まとめ:膀胱機能の不安定さ、抗利尿ホルモンの働きの問題など、原因を見極めて治療する
夜尿症の原因は、便秘、夜間に水分や塩分を取り過ぎるなど生活習慣が関わるもののほか、夜間の抗利尿ホルモンの働きが弱い、膀胱の容量が小さいといった身体的なものも。
生活習慣の見直しに加えて、薬の内服やアラーム療法で治療します。
夜尿症はきちんと取り組むことで比較的治癒しやすい病気です。
〈二子新地ひかりこどもクリニック〉
《 監修 》
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久保田亘(くぼた わたる) 小児科医
二子新地ひかりこどもクリニック院長。
日本小児科学会認定小児科専門医。
昭和大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院小児科学教室に入局。
東京都立小児総合医療センターで腎臓内科などへの勤務を経て、2017年に地域医療に携わるため、「二子新地ひかりこどもクリニック」院長に就任。
■HP【https://miyakawa-clinic.jp/】二子新地ひかりこどもクリニック
小児科一般外来のほか、皮膚科、夜尿症、アレルギー疾患、成長(低身長・思春期早発・肥満)、便秘などの専門外来も。
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💡休日・夜間の子どもの症状で困った時は☎【♯8000】
保護者の方が、休日・夜間の子どもの症状にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
この事業は全国統一の短縮番号♯8000をプッシュすることにより、お住いの都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けられます。
厚生労働省ホームページ:子ども医療電話相談事業(♯8000)について
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