【インタビューVol.06】「 低身長 」ってどんな病気?「身長が低い」が遺伝や個性だけではないことも。【医師監修】

2024.12.02

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【監修】小児科医:髙木優樹(糀谷こどもクリニック院長)

体格の大きい、小さいも子どもの個性の一つではありますが、同世代と比べて小さ過ぎると「大丈夫かな?」と不安になることもありますよね。

 
平均よりも身長が著しく低い「低身長」の中には、別の疾患が隠れていて、早期の治療が必要な場合もあります。
どのように見極めたらいいのか、小児科の中でも内分泌系を専門とする糀谷こどもクリニック院長の高木優樹先生にお聞きしました。

 

〈日本内分泌学会の専門医・指導医、評議員でもあり、低身長の症例を多く診ています。〉

年齢・性別の平均身長より大きく下回っていたら受診を

 

――どのくらい身長が低いと「低身長」になるのでしょうか?

 

高木

母子手帳に「成長曲線」というグラフが載っているのを見たことがあるでしょうか。
ここに子どもの身長や体重の成長記録を書き入れることで、平均からどのくらい離れているかを見ることができます。
このグラフで-2SDよりも下回る場合、「低身長」ということになります。
例えば、12歳の男の子で身長が130cmなら、-2SD以下になるので低身長です。

 

成長曲線
年齢別・男女別に子どもの身長・体重の平均値、標準偏差を用いてグラフにしたもの。
平均からどのくらい離れているかを「SD(標準偏差)」で表します。

 


〈クリニックには成長曲線を描き込むための用紙が用意されています。〉
 

―― 一度でも-2SDを下回る身長になった場合、すぐに受診した方がいいのでしょうか?

 

高木

ケースバイケースではありますが、低身長の原因が自然に治らないものであったり、何か病気が隠れていたりする場合は、様子を見ている期間が長いとその分治療が遅れてしまいます。
気になったら早めに受診するのをおすすめします。
「低身長 SD計算」と検索すると、年齢と身長を入力すると計算してくれるサイトやアプリも出てくるので、まずはそこで低身長かどうか確認してみるといいでしょう。

 

――受診するのはかかりつけの小児科でいいのですか?

 

高木

そうですね。
ただ、先生によっては「元気そうだし様子を見ましょう」で終わってしまうこともあります。
-2SDを下回っており保護者の方が心配に思う場合は、低身長を専門にしている小児科(多くは大学病院)を紹介してもらってください。

 

――受診する場合、事前に準備することはありますか?

 

高木

受診する時点の身長でも、その時点で低身長かどうかはわかりますが、それだけでは治療が必要な病的なものかどうかの診断は難しいです。
生まれてからこれまでの身長や体重の流れを知りたいので、母子手帳の記録のほか、保育園や小学校だと定期的に身体測定を行っていると思いますので、それらの身長の計測データを来院時に持参いただくか、ご自宅で成長曲線を記入したうえで持参いただければと思います。

成長ホルモンの治療は早めに始めた方がよい?

 

――低身長になる原因にはどのようなものがあるでしょうか?

 

高木

単純に生まれたときから小柄で、ご両親も小柄という体質的な場合が最多です。
低身長でも成長のスピードが保たれていれば深刻な病気が隠れていることはまれで、そんなに心配する必要はありません。
ずっと平均以上だったのに、あるところを境に成長が緩やかになり低身長になった場合は原因を探る必要があります。
食事の影響による低身長(多くは体重の増えもよくない)も比較的多いです。
例えば、離乳食が始まったけれど食べる量が少ないとか、アレルギーがあって卵やお肉などタンパク質が食べられないとか、食事量に原因があるようなケースです。
ある程度食事量が増えてくると身長の伸びも改善することが多いので、基本的には食べられるようになるまで様子を見ます。
ほかにも過度なダイエットが原因で身長の伸びが止まることもありますね。
治療が必要な病気であれば、すぐに適切な治療を開始します。

 

――低身長の原因になり、治療が必要な病気はどのようなものがありますか?

 

高木

低身長が心配で受診される7~8割の患者はいわゆる体質的な(両親が小柄な遺伝的なもの)であり、医学的には治療を必要としません。
残りの2~3割の患者さんの中には骨の病気や内臓の病気が隠れていることもありますし、甲状腺の機能低下や成長ホルモンの分泌不足もあり得ます。
また、女の子特有ですがターナー症候群という染色体の一部が不足する体質であることもあります。
その他に、まれに脳腫瘍などの病気によってホルモン分泌がうまくいかなくなっているケースもあります。

 

――低身長で受診した場合、どのような検査をするのですか?

 

高木

最初は成長曲線を見せてもらい、問診をして、検査が必要だと判断したらまずは血液検査をします。
先述のターナー症候群を疑った場合は染色体の検査(これも血液検査)を行います。
骨の成熟度の評価のため、あるいは骨の異常が疑われる場合にレントゲン検査も行います。
血液検査をすると、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌が少なくないかなどが分かります。
必要であれば、成長ホルモンの分泌量が少ないことを確認するために、負荷試験という点滴を使った特殊な検査を行います。

 

――成長ホルモンの分泌が悪い場合は、どのような治療をするのですか?

 

高木

-2SDを下回っている低身長で、かつ上記の負荷試験で成長ホルモンの分泌が少ないことが確認された場合、1日1回もしくは週に1回成長ホルモンの注射をします。
この場合は保険診療で、かつ小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり、保護者が申請すると医療費の助成を受けられます。自治体によっては医療費の負担なく治療を受けられる場合もあるので、主治医に申請すべきかを確認してみてください。

 

*令和6年4月1日より、小児慢性特定疾病医療費助成における成長ホルモン治療に対する取り扱いが変わり、保険診療における適用基準と同様になりました。
 

 

――成長ホルモンの治療を始めるのに、適した時期はありますか?

 

高木

思春期が終わりに近づく頃(女の子は中3くらい、男の子は高2くらい)には身長が止まってしまうので、それより前に治療を始めないと効果が出にくくなります。
1~2カ月の治療ですぐに効果が出るものではなく、数年の治療期間が必要です。
できれば小学生の間(思春期が始まる前まで)には始められるといいです。

食事、睡眠、運動と基本的な生活を整えるのが重要

 

――低身長の子どもに対して、家庭でできるケアはありますか?

 

高木

基本的なことですが、食事、睡眠、運動をきちんとすることですね。
食事に関してですが、炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂取することがもちろん重要ですが、特にタンパク質を十分に取ることを意識してください。
睡眠に関しては、成長ホルモンは夜間に多く分泌されますので、特に成長ホルモンが出やすい深夜1時~2時頃にぐっすり眠れているよう、遅くても夜10時頃までには就寝しておきたいです。

 

――夜寝るのが遅いと身長に影響しますか?

 

高木

影響はあります。
先述の通り成長ホルモンは夜間に多く分泌されますので、夜遅くまで起きている子は、身長が伸びにくいことが知られています。
特に中学受験を控えている子は、夜遅くまで勉強する機会が増えます。
通塾のため食事も不規則になり、運動不足にもなりやすいので注意が必要です。

 

――特定のスポーツをしていると、身長が伸びにくくなるというのはありますか?

 

高木

野球やサッカーなど一般的なスポーツは問題ありません。
強いて言えば、足腰に強い負担がかかるものや過剰な食事制限をするスポーツは低身長につながる可能性があります。
逆に「このスポーツをやると特に身長が伸びる」というのはデータがありません。
適度な運動で骨や筋肉に負荷がかかると成長ホルモンの分泌が促進されますので、適度な運動を心がけてください。

 

――身長を伸ばすサプリメントというのを見かけますが、積極的に使った方がいいのでしょうか?

 

高木

タンパク質やアミノ酸など身長を伸ばすのにいいといわれる栄養素が入っていますが、それさえ摂取すれば低身長が解決するというものではないと思います。
やはり大事なのは普段の食事です。
今のところ健康被害が出たとは聞かないので、摂取して害があるとは思いませんが、強くおすすめはしません。
あくまで食事で足りない栄養素を補うくらいの感覚でしょう。

まとめ:「低身長かも?」と思ったら成長曲線を確認して早期受診を

年齢と性別に応じた平均身長からの隔たりを見る「成長曲線」で-2SDよりも身長が低く、成長ホルモンの分泌不足が原因の「低身長」は、ホルモン投与の治療を受けることが可能。
ただし、身長の伸びが止まってしまう数年前には治療を開始する必要があります。

 
 

〈糀谷こどもクリニック〉

 

 

《 監修 》

  • 髙木優樹(たかぎ まさき) 小児科医

    糀谷こどもクリニック院長
    日本小児科学会小児科専門医・指導医
    日本内分泌学会内分泌代謝科(小児科)専門医・指導医・評議員、日本小児内分泌学会評議員
    慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター内分泌代謝科に勤務。川崎市立川崎病院小児科医長として、川崎市小児慢性特定疾病審査会委員の経験も。
    一般的な小児科診療はもちろん、内分泌代謝(小児の成長)を専門とし、臨床・研鑽を積む。
     
    ■HP【 https://koujiya-kodomo.com/】糀谷こどもクリニック
    小児科の一般診療のほか、低身長や肥満、気管支喘息、食物アレルギーなどの専門外来も。皮膚科も併設されている。
     
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