2024.12.09
目次
血液中のタンパク質が少なくなると、血管の中の水分が血管の外側(間質)に出てしまいます。
その結果、尿の量が少なくなり体内に水がたまって、むくみ(浮腫/ふしゅ)がみられるようになります2,3) 。
また、腎灌流(じんかんりゅう/腎臓に入ってくる血液の流れ)の減少とレニン-アンジオテンシン系の活性化を伴う血管内容量の減少が起こります。
タンパク質が少なくなることにより、肝臓はタンパク質の合成を増加させますので、それによって高脂血症もきたします。
ネフローゼ症候群は子どもでも成人や高齢者でもかかる病気ですが、子どもと成人では治療方法も異なるため、ここでは子どものネフローゼ症候群(小児ネフローゼ症候群)についてご紹介します。
小児ネフローゼ症候群には、1年間に小児10万人あたり6.5人が発症し、年間約1,000人の子どもが新たにネフローゼ症候群になるといわれています1,4) 。
(1) 原因が完全にはわかっていない特発性(一次性または原発性)ネフローゼ症候群
(2) 慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)、膠原病(こうげんびょう)、糖尿病(糖尿病性腎症/とうにょうびょうせいじんしょう)など他の病気によって引き起こされる続発性(二次性または症候性)ネフローゼ症候群
(3) 遺伝子の異常により生後間もなく発症する先天性ネフローゼ症候群(表1)2,3)
表1 ネフローゼ症候群の主な原因による分類 |
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特発性ネフローゼ症候群 (原発性ネフローゼ症候群) |
・原因は完全にはわかっていない ・免疫や遺伝子の異常が関係している可能性がある ・腎臓にある糸球体(しきゅうたい)というろ過装置の不具合による |
続発性ネフローゼ症候群 (二次性ネフローゼ症候群) |
・別の病気が原因で発症する ・原因である病気の治療を行うことで改善する ・主な原因は慢性糸球体腎炎、膠原病、糖尿病 |
先天性ネフローゼ症候群 (遺伝性のネフローゼ症候群) |
・生後3カ月以内に発症する ・遺伝子の生まれつきの異常による ・有効な薬がない ・腎移植が行われることもある ・非常にまれな病気 |
伊藤秀一(編).:新子どもの腎炎・ネフローゼ第1版. 東京医学社. pp28-34, 2018.
金子堅一郎(編).:4. ネフローゼ症候群. 子どもの病気とその診かた第1版. 南山堂. pp380-383, 2015. より作成
腎臓は、血液中の老廃物(尿素窒素、クレアチニン、尿酸など)を取り除き、いったん血液から尿に移った体に必要な物質(ナトリウム、ブドウ糖、水など)を体内に戻して再利用する働きをしていますが、腎臓の中にある糸球体(しきゅうたい)という臓器の機能が落ちると、糸球体からタンパク質が漏れ出してしまい、ネフローゼ症候群が引き起こされます(図1)2) 。
図1 腎臓の働きとネフローゼ症候群
むくみは、重力によって影響されるため、朝はまぶたが、夕方から夜には足がむくみやすくなります。
血管の外に漏れ出た水分は、肺にたまって胸水(きょうすい)になったり、お腹の中にたまって腹水(ふくすい)になったりすることもあります。
腸もむくむため、腹痛や下痢、嘔吐、食欲低下、倦怠感などの症状が出ることもあります。
長期化すると成長障害をきたすこともあります。
感染症にかかりやすくなったり、血管がつまりやすくなったりすることもあります2) 。
なお、ネフローゼ症候群では、蛋白尿がない時(*寛解(かんかい)時)には、症状はありません5) 。
このほか、腎臓の組織の種類に応じて治療方法が異なるため、腎臓から組織を取り出して顕微鏡で調べる腎生検(じんせいけん)も行われます。
ネフローゼ症候群では、腎臓の組織の型によって治療方法も違ってくるため、腎生検は重要な検査です6) 。
💡腎生検によって、特発性ネフローゼ症候群は、(1) 微小変化型ネフローゼ症候群、(2) 巣状分節性糸球体硬化症(そうじょうぶんせつせいしきゅうたいこうかしょう)、(3) メサンギウム増殖性腎炎の3つに分類されます。
このうちの約90%は微小変化型ネフローゼ症候群で、微小変化型ネフローゼ症候群の約90%にはステロイドの内服が有効です3) 。
このほか、蛋白尿を調べる尿検査、血液中のタンパク質濃度や腎機能を調べる血液検査が行われます。
ステロイドの内服で80~90%の子どもは、蛋白尿がみられなくなり、寛解となります(ステロイド感受性ネフローゼ症候群)。
一方、残りの10~20%は、ステロイドを内服しても蛋白尿が続くステロイド抵抗性ネフローゼ症候群となります。
ステロイド感受性ネフローゼ症候群のうちの約20%の子どもは、1回目のステロイド内服だけでその後は再発しません。
20~30%の子どもは、1回目のステロイドの治療後数カ月で再発し、再発を何度か繰り返しますがその後完治することが多くなります。
残りの50~60%の子どもは、ステロイドの減量や中止によって、何度も再発を繰り返します。
このようなネフローゼ症候群を頻回再発型ネフローゼ症候群、ステロイド依存性ネフローゼ症候群と呼んでいます(図2)4) 。
小児のネフローゼ症候群はアトピー性疾患の病歴が多いとされています。
図2 特発性ネフローゼ症候群に対するステロイド内服後の経過
ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対しては、シクロスポリンとステロイドパルス療法〔通常の10~30倍の大量のステロイド(メチルプレドニゾロン)を点滴で繰り返し投与7) 〕の併用が行われることが多くなっています4) 。
蛋白尿を減らす目的で片側の腎臓を手術で摘出したり、蛋白尿を減らす薬を対症療法として行ったりしますが、最終的には腎不全となり、腹膜透析や腎臓移植が必要になります3) 。
このほか、むくみが強く普段の生活が難しい、腸のむくみにより嘔吐や腹痛、下痢などの症状が強いなどの場合には、不足しているタンパク質であるアルブミンを点滴で補充することもあります7) 。
『参考資料』
1) 日本小児腎臓病学会(監修).:小児特発性ネフローゼ症候群ガイドライン2020初版. 診断と治療社. pp2-4, 2020.
2) 金子堅一郎(編).:4. ネフローゼ症候群. 子どもの病気とその診かた第1版. 南山堂. pp380-383, 2015.
3) 伊藤秀一(編).:新子どもの腎炎・ネフローゼ第1版. 東京医学社. pp28-34, 2018.
4) 飯島一誠, ほか.:小児特発性ネフローゼ症候群. 日内会誌. 109:926-932, 2020.
5) 伊藤秀一(編).:新子どもの腎炎・ネフローゼ第1版. 東京医学社. pp35-36, 2018.
6) 日本小児腎臓病学会(監修).:小児特発性ネフローゼ症候群ガイドライン2020初版. 診断と治療社. pp7-11, 2020.
7) 伊藤秀一(編).:新子どもの腎炎・ネフローゼ第1版. 東京医学社. pp51-61, 2018.
8) 伊藤秀一(編).:新子どもの腎炎・ネフローゼ第1版. 東京医学社. pp125-138, 2018.
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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