【インタビューVol.07前編】「 発達障害 の療育現場」ってどんなところ?療育とは“とても丁寧に子育てをすること”【医師監修】

2025.04.02

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【監修】公認心理師・臨床発達心理士:池畑美恵子(淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授・淑徳大学発達臨床研究センター センター長)

――子育てにおいて「ほかの子と発達の様子が違うかも?」という気がかりがあると、不安がどんどん大きくなっていきます。

子どもの発達についての気がかりを抱える保護者、「育てにくさ」を感じて悩む保護者にとって、発達の凸凹へのかかわり方を知ることができる場は、とてもありがたいものです。
 

発達に気がかり・つまずきを示す子どもを対象に、福祉的・心理的・教育的及び医療的な支援を行う発達支援のことを「療育」といいます。

 
療育」はどのような機関で、どのようなことが行われているのでしょうか。
淑徳大学内に設置された療育機関である、淑徳大学発達臨床研究センターにおうかがいし、同センター長であり、淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授の池畑美恵子先生にお聞きしました。
 

〈おだやかに、ゆったりと語りかけてくれる池畑先生。子どもや保護者の支援だけでなく、将来的に発達支援や教育の現場で活躍していくであろう学生も数多く育てています。〉

「療育」は円滑な日常生活、社会生活を目的とするもの

――療育の対象になる発達障がいとはどのようなものですか?

 

池畑

発達障害者支援法では、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの1)が「発達障がい」であるとされています。

 

1)文部科学省:特別支援教育について:発達障害者支援法(2025年1月閲覧: https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/1376867.htm)

 

池畑

もう少し広い範囲で言えば「認知、社会性、学習面などで発達の過程につまずきがある」「得意なことと苦手なことの差が非常にある」といったことを指すのではないかと思います。

 

自閉症
他者との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、感覚の過敏性、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする。
3歳くらいまでに現れることが多く、知的発達の遅れを伴う場合も、伴わない場合もある。医療の現場における「自閉症スペクトラム症(ASD)」とほぼ同義。
 
学習障害(LD)
視覚、聴覚、知的、情緒などの障がいや、環境的な要因によるものではなく、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す状態。
 
注意欠陥多動性障害(ADHD)
年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、衝動性、多動性を特徴とする行動の障がい。社会的な活動や学業の機能に支障がみられる。

 

 

――発達障がいの疑いがあれば、必ず医療機関を受診したほうがいいのでしょうか?

 

池畑

そういうわけではありません。
特にお子さんだと診断がつきにくい子もいますし、一度診断を受けた後で発達に変化がみられる子もいます。
発達障がいかどうかというのは、「生活上、あるいは学校や園ですごすうえで、何らかの困難がある」というのが基盤の考え方になるかもしれません。

 

――発達に気がかりやつまずきがある子に対する「療育」とはどのようなものでしょうか?

 

池畑

身体的・精神的機能の適正な発達をうながし、日常生活や社会生活を円滑に営めるようにするために、それぞれの特性にあわせて行う支援のことです。
端的に言うと、「とても丁寧に進めていく子育て・保育・教育」ということだと思います。
一般的な保育や教育は、子どもの年齢にあわせて進めていきますが、療育はひとりひとりの理解や発達、性格に合わせてかかわっていくもので、やっていることはそこまで特別なものではありません。
 
ポイントとしては、その子に固有の原則を理解してスモールステップで進めること。
それから、子どもがやりたい、やってみようかな、という思いが芽生えるような場面を意図的につくる、整理すること。
そういったかかわりが中心になっていきます。

 

――淑徳大学発達臨床研究センターはどのような機関になりますか?

 

池畑

発達に気がかりやつまずきのある子とその保護者に日常的に通っていただき、療育を行うほか、お子さんが在籍している園や学校、その他の通所機関と連携して、サポート体制について相談も行います。
療育を行う機関には一般的には児童発達支援センター、児童発達支援事業所があり、これらは自治体から「受給者証」の発行がないと利用できませんが、淑徳大学発達臨床研究センターは大学の臨床、研究を行う施設なので、医療機関での診断や受給者証の有無を問わず、受け入れ枠さえ空きがあればどなたでも利用が可能です。

 

――淑徳大学発達臨床研究センターでの療育の特色はどのようなものですか?

 

池畑

特色は大きく三つあります。
一つ目は「感覚と運動の高次化理論」という療育の柱となる理論があることです。
柱があることでスタッフが入れ替わっても同じ方針で支援を継続できるよさがあります。
 
二つ目は、理論の中に発達の段階をみていく独自の指標があることです。
障がいの重さや知的発達の段階、年齢を問わず、その指標を手がかりにかかわっていくので、幅広い受け入れや対応が可能になっています。
 
三つめは療育に独自の教材を使用すること。
教材を介することで、人とのかかわりが生まれやすくなります。
パズルをするにも、スタッフが「星(の形のピースを)くださいな」と言うのを聞いて、子どもが「どうぞ」とする。
単に「星ってどんなものか知っている?」という会話でもいいのですが、教材があると何を求められているのか、何をすればいいのかがわかりやすくなります。
あとは、学部3年生、4年生および大学院生の臨床実習の場でもあり、専任スタッフだけでなく学生が個別療育、集団療育に携わるのも特色といえるでしょう。

 

――「感覚と運動の高次化理論」とはどのようなものですか?

 

池畑

子どもの発達は、感覚の受容が育っていくことで、運動が引き起こされていくという考え方です。
例えば「目で見たものに手が伸びる」のもそのひとつです。
体に直接伝わる感覚や目や耳での刺激受容を通して、外に向けて運動を起こしていくのが発達のスタートで、そこがうまくつながっていくと、次第にイメージの世界の理解が深まり、やがてことばで外界をとらえたり、自分の体や運動を調整できるようになっていきます。

「個別療法」と「集団療法」それぞれから発達を促していく

――具体的には、どのような療育を行っているのですか?

 

池畑

個別療法と集団療法があります。
個別療法の中では、教材を使うことが多いです。
楽器も教材としてたくさん準備していて、楽器を出したときに、どうしたら手が伸びやすくなるのか、どうやって触るのか、どんな音が楽しめるのかを、ひとつひとつ教材を出す中でよく観察します。
そうして、この子の手の発達は、今はこのような段階なんだな、まだ手と目がうまくつながっていないのかな、と読み取っていくのです。

また、個別療法の中で、ほめてもらえる、自分がやっていることをちゃんと見てもらえるという経験が、人を信頼し、安心してかかわる基盤になっていきます。
特に自閉症傾向のお子さんは、自分にできることがある、これはわかる、やれると感じられることが情緒の安定にもなります。

 

〈個別療法は個室内で行います。保護者はモニターを通じて療育の様子を観察することができます。〉
 

〈個別療法を行う部屋には、それぞれ動物の名前がつけられています。気分やこだわりに合わせて別の動物に変えることもできます。〉

 
 

――集団療法はどのようなことを行いますか?

 

池畑

発達の段階や体の大きさなどを鑑みて、最大6名、少なければ4名程度のグループで行います。
どのグループでも行っているのは、音楽と運動に関する活動です。
音楽は音の受容や楽器への興味を広げたり、音楽を聴きながらテンポに合わせて動いたりするような遊びも取り入れています。
運動は身体感覚や体のイメージを育てることが中心です。
サーキット運動に、スタッフと1対1であったり、友達どうしてやったりする場面を取り入れています。
遊具も使います。
遊具によって「もっと頭を低くしないとぶつかる」など、自分の動きに気付いていくことができるのです。

 

――集団療法と個別療法では、療育の目的が違うのですか?

 

池畑

園や学校に限らず、社会生活の多くは集団に入るものです。
集団だと、個別よりも少し場面が複雑になりますし、ほかのお子さんによって場面が変化していきます。ただ、グループ活動にも一定の流れがあり、「このあとはこの運動をするんだな」と流れがだんだん見通せるようになってくると、少しずつ「待つ」ことができるようになっていきます。スタッフのやることを見る力、スタッフや友達がやることを見ながら待つ力もグループだからこそ伸びていくものだと思います。

 

――どのお子さんも個人療法と集団療法の両方を行っていくのですか?

 

池畑

配分はお子さんの様子によって変えていきます。
初期段階だと、集団での活動は刺激が多すぎて混乱してしまうお子さんもいます。
その場合は、無理に友達とかかわらせるのではなく、集団の中で個別の活動を行っていくこともあります。
やがてお友達が視野に入って楽しくなってきたら、少しずつ友達とのかかわりを増やしていくのです。
最初は集団療法の部屋にも入れなかった子も、1年2年やっていく中で、ある場面ではみんなとベンチに座れる、期待してみることができるなどの姿が出てくるものです。

 

――集団療法で大切にされているのはどのようなことですか?

 

池畑

集団に入る際は「ルールに従う」ことを重視されがちですが、私たちはそこにあまり重きを置いていません。
もちろんルールはありますが「楽しさの中にルールあり」だと考えています。
自分がやるのが楽しみだから、順番を抜かさずに待つ。
やってみたいからじっくり見るなど、自分が楽しむためにルールが必要だとわかると「待つ」ができるようになります。
すると友達の話を聞くのも面白くなり、「聞いてみたい」という気持も芽生えていきます。

まとめ:療育の内容は特別なものではなく、子どもに合わせて丁寧にかかわっていくこと

療育には、子どもとスタッフが1対1でかかわる個別療法と、数名の子どもが一緒に活動する集団療法があります。

いずれも決まったカリキュラムがあるわけではなく、子どもの個性や発達の段階に応じて、どのようなかかわりをするかを決めていきます。

 
 
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■後編の記事は2025年4月8日に公開いたします。

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淑徳大学発達臨床研究センターは淑徳大学キャンパスの校舎内にあり、学部3年生、4年生および大学院生の臨床実習の場でもあります。

 

▶淑徳大学発達臨床研究センター:https://www.shukutoku.ac.jp/university/facilities/welfare/hattatsu) 
発達に気がかりやつまずきを示す幼児、小学生を対象にした個別療育、集団療育をはじめとする発達相談や支援、保護者へのサポート、幼稚園・保育園・こども園・小学校など関係機関との連携を行っている。

《 監修 》

  • 池畑 美恵子(いけはた みえこ) 教授

    淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授 
    淑徳大学発達臨床研究センター長
    公認心理師、臨床発達心理士
    発達に気がかりやつまずきのある幼児と小学生の療育・学習支援と臨床研究を行っている。
    著書:感覚と運動の高次化理論からみた発達支援の展開- 子どもを見る眼・発達を整理する視点(学苑社)など

     

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