2024.03.25
1. 学習障害(LD、限局性学習症)とは?
2. 学習障害 の原因と症状
3. 学習障害 の検査でわかること
4. 学習障害 の治療法と薬
5. 学習障害 のホームケアと予防
学習障害は、病気ではなく、お子さんの個性や特性であると考えられています。
発達障害には、学習障害のほかに、📖自閉スペクトラム症(ASD、自閉症)、📖注意欠如・多動性障害(多動症、ADHD、注意欠陥多動性障害)があり、これらの3つの障害のうちの2つ以上を同時に持つ人もいます(図1) 1,3) 。
図1 発達障害に含まれる障害
① 2つ以上の障害を同時に持つ人もいます。
② 自閉スペクトラム症と注意欠如・多動性障害の人には、知的な遅れがみられることもあります。
学習障害のある人の割合は、国や地域によっても異なりますが、学齢期の子どもで5~15%、成人で約4%といわれています 4) 。
以前は、学習障害などの発達障害の原因がよく分からなかったこともあり、親の育て方や本人の努力不足のせいではないかと思われることもありました。
そのため親御さんが「自分のしつけが悪かったのでは」などと非常に悩まれることもありました。
しかし、現在では発達障害は、脳の機能の不具合ために起こるもので、しつけや本人のなまけなどのせいではないことが分かっています。
一つ目は、遺伝子には問題はないけれど、妊娠中や出産の時に何らかの影響が子どもの脳に及ぶというものです。
二つ目は遺伝子の情報に何らかの異常が起き、それが脳の機能に影響するというものです 5) 。
学習障害の子どもが困っている原因は、理解、行動する過程(認知)に問題が起きていて、それが学習や生活をしにくくしています 5) 。
困っている主なことは、次の6つです(図2) 6) 。
図2 学習障害の子どもが困っていることの例
ほかの人が話していることが理解できない、ほかの人が話していることを書きとるのが苦手、単語の書き誤りが多い、長い話をじっと聞いていられない、言葉を復唱できない、などがみられます。
筋道を立てて話すのが苦手、文章にまとめて話すのが苦手、話そうとする内容とは関係のない単語や文章が混じってしまう、別の言い回しで話せない、話が回りくどくなる、長い文章で話すのが苦手、などがみられます。
文字を正しく読めない、間違った発音をする、文字や単語を抜かして読む、音読はできても意味を理解していない、などがみられます。
文字を正しく書けない、漢字の「へん」と「つくり」を間違える、単語の意味は分かるのに単語がうまく書けない(例:「たまごをまぜる」が「たまごがまざる」と書いてしまう。「ぞうきんをしぼる」を「ぞうきんをしばる」と書いてしまう。)、短い文章しか書けない、文法的な誤りが多い、などがみられます。
数字の位(桁)が分からない(例:二桁以上の足し算をする時、どの数字とどの数字を足したらよいか分からなくなる)、繰り上がり繰り下がりが分からなくなる、九九を暗記しても計算に応用できない、暗算ができない、などがみられます。
算数の応用問題・証明問題・図形問題が苦手、結果を予測する・想像するなどが苦手、長文読解が苦手、その場にないものを推測するのが苦手(例:今晩(の夕飯)どうする?と聞かれた時、言葉(夕飯)が省略されていることがとっさに推測できず、「ゲームをする」などと答えてしまう)、などがみられます。
問診では、生まれてから現在までの社会的なやりとり、言葉の発達、健診の結果、幼稚園や保育園、小学校での様子などが聞かれます。
行動観察では、子どもを自由に遊ばせて、その様子や行動パターンを観察し、子どもの個性・特性を調べます。
発達検査では、子どもの言葉、社会性、運動の個性・特性は何か、どんなことが苦手なのかを調べます。
合併症を診断する検査では、知能検査、脳波検査、遺伝子検査などを行い、知的障害やてんかん、感覚の過敏性などの合併症の有無を調べます。
まず、やる気や努力のなさが原因で学習の問題を抱えているのではないことを、本人や周囲の人に理解してもらうことが大切です 2) 。
保護者は、つい子どものできないことに目が行ってしまいがちですが、得意なことがあります。
また、ある分野に飛びぬけた才能を秘めていることもあります。
そうしたプラス面に目を向けて、できることや良いところを伸ばしてあげることも大切です 8) 。
障害のある子どもを支援する公的機関やサービス制度があります。
そのような機関や制度を利用して、できる限り保護者や家族の負担を減らしましょう。
各自治体では、療育手帳制度、精神障害者保健福祉手帳制度、特別児童扶養制度などの制度を設けています。
詳しいことはお住まいの市区町村の保健福祉課や児童相談所にお問い合わせください 8) 。
また、全国の都道府県や一部の市では、発達障害支援センターを開設していて、日常生活の相談支援や発達支援、就労支援などを行っています 3) 。
図3 学習障害の子どもに対する接し方の基本
できることや得意分野に積極的に取り組めるようサポートし、できたらほめて、伸ばしてあげましょう。
子どもの成長は人それぞれと捉えて、決してほかの子とは比べないようにしましょう。
できないことがあっても、むやみに叱るのではなく、子どもの気持ちに寄り添って、どうすればできるようになるかを一緒に考えましょう。
保護者が手をかければかけるほど、子どもの「やってみよう」という意欲や行動力をそこねることになりかねません。子どもの意思を尊重し、自分から選んで行動する習慣をつけてあげましょう。
「できなくても仕方ない」と、放任するのは良くありません。親の無関心な態度は、子どものやる気の芽を摘みます。
また、家庭でのしつけでは、以下のことを心がけましょう(図4) 10) 。
図4 家庭でのしつけの注意点
「何時に起きる」「学校の準備は前の日にしておく」など。
「先生や友達に会ったらあいさつする」「授業中は席に着く」など。
「先生や保護者の指示を守る」「順番を守る」など。
《 監修 》
宮尾 益知(みやお ますとも)小児神経精神科医
徳島大学医学部卒業。東京大学小児科、東京女子医大小児科、自治医科大学小児科助教授、ハーバード大学・ボストン小児病院神経科研究員、国立小児病院神経科、2002年より国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科医長、2014年より発達障害専門のクリニックとして、どんぐり発達クリニック開業、現医療法人社団 益友会理事長、ギフテッド研究所理事長、白百合女子大学発達臨床センター顧問、翔和学園顧問、株式会社Kaienアドバイザーなど。
▶HP https://www.donguri-clinic.com/ 医療法人社団 益友会 どんぐり発達クリニック