2025.02.28
内頚動脈が細くなると脳への血流が不足し、それを補うために周りに細い血管がたくさんできます。
この血管を脳の画像検査でみると、細い血管がもやもやとした煙のように見え「もやもや血管」と呼んでいたので、病気も「もやもや病」に命名されました(図1)1,2,3) 。
鈴木二郎先生が世界で最初に確立した疾患です。
もやもや病になる人の割合は、人口100万人あたり年間3~5人といわれており4) 、平成25年度の都道府県に登録されていた患者さんの数は約1万6000人でした2,5,6) 。
男女比は1:1.8と女性に多く、病気になりやすい年齢は、小学校入学前後に大きなピークがあり、成人後に緩やかなピークがあります1,6) 。
0歳から小学生、中高年まで幅広く発症します。
もやもや病が疑われた場合は検査を行い、症状に対する治療が行われますが、外科的治療が必要です1) 。
図1 もやもや病の画像検査でみられるもやもや血管
遺伝子の感受性のみでは原因としては不十分で研究途上です。
内頚動脈が詰まることで症状がみられるようになります。
その後、内頚動脈が詰まりによる血流不足を補うため、もやもや血管が発達し、症状は一時的によくなります。
しかし、年齢とともに細いもやもや血管では血流不足を補いきれなくなり、ふたたび血流が不足して症状がぶりかえします(図2)1) 。
自然に軽快することはなく、年齢が低いほど重症で早期の治療が必要です。
もやもや病は、発病した人の家族の10~15%にもみられることから、遺伝が関係していると考えられています。
しかし、必ずしも親から遺伝するとは言い切れないと考えられています4,5) 。
図2 もやもや病の一過性脳虚血症状の推移
もやもや血管は細いため、脳の血流が不足しがちになり脳梗塞を起こします。
急性期は脳圧を下げる治療、脳保護治療、消化管出血に対する治療を行います。
このタイプの症状は、手足がしびれる、力が入らなくなる、言葉が出にくくなる、言葉が理解しにくくなるなどです。
これらの症状は、通常、数分から数十分続いてよくなります。このような状態を一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)と呼んでいます。
子どもは、啼泣(声をあげて泣く)、過換気(不安や緊張で息を激しくすること)、感染症、脱水、外傷などから一過性脳虚血発作を起こしたり、脳梗塞を起こしたりします。
声をあげて泣く、大笑いする、熱いものをフーフーと冷まそうとする、風船を膨らませる、笛などの吹奏楽器を吹く、運動するなどの動作は過呼吸(かこきゅう)となりやすく、血液中の二酸化炭素が低くなると、血管が細くなり意識が低下したり、痙攣や脳梗塞を起こしたりします1,3) 。
このタイプでは、血管の壁が薄くて弱いもやもや血管が破れ、脳出血を起こすことで引き起こされます。
症状には、激しい頭痛と一緒に起こる意識障害・手足の麻痺・言語障害などです3) 。
子どもでは虚血型が多く、成人では出血型が多くなります。
初期症状が脳出血や脳梗塞の場合は、後遺症として運動麻痺・言語障害、高次脳機能障害などがみられることがあります。
検査は次のような手順で行われます7,8) 。
(1) 脳血管造影検査(脳の血管に造影剤を入れてX線で撮影する検査)で、血管の状態を詳しく調べます。
(2) MRI、MRA検査で主な血管が詰まっているか、もやもや血管の発達を確認します。
(3) SPECT(スペクト:脳血流検査)で、主な血管でどのくらい血流が減っているかを判断します。
(4) 症状がもやもや病に似ている他の病気(自己免疫疾患、髄膜炎、脳腫瘍など)ではないことを確認します。
内科治療と外科治療の2通りがあります。
内科治療では、抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を飲みます。
抗血小板薬は、血液の流れをスムーズにして、一過性脳虚血発作を予防します。
抗血小板薬による治療には限界があるので、一過性脳虚血発作を繰り返す場合や、精密検査で脳の血流不足がみられる場合には、外科治療を行います。
外科治療では、頭皮の血管などを使って血液の通り道を手術で別に作ります(バイパス術)。
脳梗塞の予防が期待できます。
出血が起こった直後には、血圧が上がり過ぎないようにしながら点滴を行い、血が止まるようにします。
出血の量が多い場合には、溜まった血液を手術で取り出します。
その後、脳出血の症状が落ち着いたところで、もやもや病の手術を行うかどうかを判断します5) 。
専門の相談窓口として、高次脳機能障害支援センターが各都道府県に必ず1つは設置されています。
もやもや病は現在のところ、これといった予防法はありません。
必ずしも遺伝する病気ではありませんが、ご家族内で発病する可能性もあります。ご家族に患者さんがいらっしゃる方は、頭部のMRI検査をお勧めします2) 。
もやもや病と診断がついている場合は、小児脳神経外科の先生とあらかじめ対処法など相談されていると思いますが、
予防とホームケアをご紹介します。
図3過呼吸を起こさないために
■参考資料
1) 金子堅一郎(編).:11. モヤモヤ病. 子どもの病気とその診かた第1版. 南山堂. pp463-465, 2015.
2) 済生会.:もやもや病.(2024年12月閲覧: https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/moyamoya_disease/)
3) 京都大学附属病院脳神経外科.:もやもや病. (2024年12月閲覧: https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis02/)
4) 竹本 理.:脳血管障害,もやもや病.小児科診療.第86巻-春増刊号. P778−779.2023
5) 難病情報センター.:もやもや病. (2024年12月閲覧: https://www.nanbyou.or.jp/entry/47)
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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