2024.06.17
インテンシブ ケア ユニット(Intensive Care Unit)の略で、日本語では集中治療室と呼びます。
ICUは命に関わる病態の患者さんを扱い、そのためにたくさんの医療従事者が配属されています。
大きな手術を受けた患者さんも、手術の当日はICUに入り徹底した術後管理が行われます。
命の危険があるような赤ちゃんの「後遺症なき生存(インタクトサバイバル: intact survival)」を目指して、ICU同様にたくさんの医療従事者が配属されています。
またICUと異なる新生児ならではの治療もあり、新生児医療専門の医師が24時間体制で救命のために働いています。
GCU(Growing Care Unit:新生児回復室)は、NICUほどの集中した治療は必要なく状態は安定したが、一般の病棟ではまだ心配なレベルの赤ちゃんを診る場所です。
NICUで急性期の治療を行って安定した場合に用いられます。
PICUはある程度大きくなった小児専門の集中治療室をいいます。
日本の新生児死亡率は世界で最も低いレベルになっていますが、これに大きく貢献しているのがNICUです。
今回は、NICUでどんな治療や処置が行われているかについて簡単にご紹介します。
ところが、早産や低体重で生まれてきて身体の機能が十分に発達していないと、体温を保つことも栄養や水分を摂取することも、さらには呼吸することも自力ではできない場合があります。
そんな未成熟な赤ちゃんを、出生直後から適切な環境で保育し、高度な処置や治療を行うのがNICUです。
NICUに入院した赤ちゃんは、温度や酸素濃度が一定に保たれている保育器(クベース)で育てられます。
クベースの中であれば、自分で体温を調節することや呼吸することが困難な赤ちゃんでも、生きていくのに必要な体温や酸素を得ることができます。
▼クベース
人工呼吸器が必要な赤ちゃんもいますし、体温や血圧、呼吸の状態を把握するためのモニターやセンサーは必須です。
透明な箱に閉じ込められてたくさんの機械につながれている赤ちゃんの姿は、見方によってはかわいそうに見えるかもしれません。
でも、これらは赤ちゃんが無事に成長するために必要なサポートなのです。
早産児(妊娠37週未満)と低出生体重児(出生体重2500g未満)の場合は次のような処置や治療が行われます。
※早産児や低出生体重児がすべてNICUに入院するわけではありません。
呼吸が苦手な赤ちゃんの場合、多くは保育器(クベース)内の酸素濃度を高めるだけでも十分に酸素供給を増やすことができるのですが、それでも不十分な場合、人工呼吸管理を行います。
気管に細いチューブを挿入(挿管)し、人工呼吸器につないで呼吸を助けます。
挿管は非常に不快な処置になりますので、麻酔薬を使って鎮静をかけることになります。
挿管まで必要ないレベルなら、鼻に呼吸を助ける装置を装着する経鼻的持続陽圧呼吸法(CPAP)を用いて酸素を供給することができます。
CPAPでは鎮静は不要で、赤ちゃんに大きなダメージを与えずに呼吸管理ができます。
一般的な点滴のことで、ほとんどの赤ちゃんで使用します。
手足の静脈に針を刺し、カテーテルと呼ばれる細い管から点滴で薬を投与します。
手足の静脈に針を刺し、心臓に近い太い静脈までカテーテルを挿入します。
長期間の点滴治療が必要な場合に使用します。
血圧を測ったり採血をしたりするために、手足の動脈に針を刺してカテーテルを挿入して留置します。
口からおっぱいやミルクを飲むことが上手にできず、必要な栄養を摂取できない赤ちゃんには、口や鼻に挿入したチューブから胃や腸に水分や、栄養、薬などを投与します。
生まれるまでに何らかの理由で低酸素状態が続いた場合、新生児低酸素脳症になることがあり、命はとりとめても脳性麻痺や精神運動発達遅延などが残ってしまうことがあります。
脳性麻痺になってしまうと改善するのは現在の医療ではかなり困難とされています。
脳性麻痺を防ぐ方法として現在期待ができるのが低体温療法です。
赤ちゃんの体温を33.5℃に冷却し72時間それを維持するというものです。
全身ではなく頭だけ冷却する方法(脳低温療法)もあります。
これにより、低酸素後の脳障害が進むことを防ぎ、低酸素でダメージを受けた脳の治癒を期待します。
2010年にはガイドラインが策定され、適応のケースは限られますが推奨される治療になっています。
(成人でも同様の処置は行いますが新生児ほど確立された手法ではありません。)
生まれる前の赤ちゃんは子宮の羊水の中にいて、へその緒を通じてお母さんから酸素を受け取っていましたが、生まれたらすぐに肺呼吸を始めなければなりません。
それまで水の中にいて肺の中にも羊水が入っていた状態から、突然その水を全部出して肺呼吸を始めるというのはちょっと考えても相当に大変なことですし、実際呼吸がうまくいかなくて人工呼吸器などを使うケースもあります。
40年以上前の新生児が命を落とす最大の原因であったのがこの肺の問題で、呼吸窮迫症候群(こきゅうきゅうはくしょうこうぐん)と呼ばれています。
もともと肺(肺胞)の中にはサーファクタントと呼ばれる物質が分泌されており、それが肺を膨らませる助けになっていることは分かっていましたので、新生児の呼吸窮迫症候群に対して人工的な肺サーファクタントを投与することが試みられました。
この結果、新生児の呼吸の状態が驚異的に改善し、1987年には保険適用にもなり、現在ではNICUでの標準的治療となっています。
呼吸窮迫症候群や胎便吸引症候群(羊水内で赤ちゃんが胎便を出してしまい、それが肺に入って炎症を起こす病態)、肺炎などにより、1000人に1人くらいの頻度で新生児遷延性肺高血圧症(しんせいじせんえんせいはいこうけつあつしょう)になります。
これは、肺の血管が収縮して肺へ十分な血液が供給されなくなる病態で、改善のためにはこの収縮を減らす必要があります。
この肺血管を弛緩させるのに劇的な効果があるのが一酸化窒素(NO)で、酸素に少し混ぜるだけで肺高血圧症の改善を期待できます。
2010年から新生児に保険適用になっています。(これも最近になって成人に使われるようになってきました。)
早産や低出生体重児は網膜の血管が出来上がっていないため、出生後、血管の発達が正常に行われないことがあります。
これが進行すると未熟児網膜症(みじゅくじもうまくしょう)を起こして失明する恐れがあるため、定期的に眼科の診察を受けます。
異常があった場合はレーザーを網膜に当てる治療を行います。
耳から入った音が脳に正しく伝わっているかどうか検査します。
早産児や低出生体重児は聴力に何らかのトラブルがある確率が高くなっています。
特に初乳(産後2日~1週間くらいの間に出る黄色っぽい母乳)には、赤ちゃんを細菌やウイルスから守るさまざまな免疫物質が多く含まれていて、感染症から体を守る力が弱い早産児や低出生体重児には特に重要です。
ただし、NICUに入院した赤ちゃんの多くは、口からうまくおっぱいが吸えなくて直接授乳することが困難です。
そのため、赤ちゃんがおっぱいを直接飲めるようになるまでは、お母さんは母乳を絞ってNICUに持って行けると、赤ちゃんにとってかけがえのないとても貴重なものになります。
届けられた母乳は、最初のうちはチューブで直接胃に届けます。
その後、赤ちゃんの状態が安定して口から飲めるようになったら哺乳瓶で母乳を飲む練習をし、口から飲むことに慣れてきたら直接授乳を行います。
NICUに入院している赤ちゃんは、自分で飲む力が非常に弱いので、哺乳瓶には少しの力でも吸いやすい乳首を使用し、直接授乳の場合も、赤ちゃんが飲みやすいようにニップルシールドを乳頭に装着するなどの工夫をすることもあります。
さまざまな理由で母乳を渡せないこともありますが、可能であればたとえ少量でも、赤ちゃんに大切な栄養と免疫を届けてあげてください。
最初のうちは、保育器の中で多くの医療処置を受けている赤ちゃんも、治療が進み体調が落ち着いてくると、お母さんやお父さんは、保育器の中でスキンシップをしたり短時間保育器から出して抱っこしたりできるようになります。
NICUからの退院にはっきりとした基準はありませんが、体重が順調に増え、呼吸や栄養状態などが安定するのが目安です。
NICUを退院した赤ちゃんは、多くの場合すぐに家に帰るのではなくGCUに移ります。
GCUは新生児回復室とも呼ばれ、NICUでの集中治療を終えた赤ちゃんとその家族が退院に向けての準備を行うところです。
GCUでは、赤ちゃんは保育器(クベースもしくはインキュベーター)を卒業し、コットと呼ばれる専用のベッドで過ごします。
お母さんやお父さんは、授乳やおむつ替え、沐浴などのやり方を看護師から習い、赤ちゃんのお世話に慣れていきます。
病気や障害により、自宅でも投薬や人工呼吸器などが必要な場合は、薬剤師や臨床工学士から指導を受けます。
赤ちゃんもお母さんやお父さんも、安心して自宅で過ごせる準備が整ったらGCUを退院し、いよいよ自宅に帰ることになります。
出産後、すぐに赤ちゃんがNICUに入院すると、お母さんもお父さんもとても不安になります。
特にお母さんは「小さく生んでしまった」「かわいそうなことをした」という思いや、十分にお世話ができないもどかしさで落ち込んだ気持ちになりやすいものです。
でも、NICUでは、高度な医療的サポートを24時間体制で受けながら、赤ちゃんはそれぞれのペースで日々成長しています。
搾乳がうまくできないときは、母乳外来や助産師に相談してみましょう。
しばらくは保育器の外から眺めるだけですが、そのうちスキンシップができるようになるので、焦らずにその時を楽しみに待ちましょう。
なにより、疑問や不安、困ったことなどは一人で抱え込まないこと。
家族に話したりNICUのスタッフに相談したりして、みんなで一緒に赤ちゃんを応援できるといいですね。
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科