2021.10.11
目次
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーを合併しているお子さんをみかけることは多いと思います。
しかし、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは片や皮膚、片や消化器の疾患であるのに、なぜ合併するのでしょうか?
近年このトピックに関する研究が進みました。
全てが解明されているわけではありませんが、その背景や現時点での対策について説明します。
小児のアレルギーの診療をする中で、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーを合併しているお子さんをよくみかけます。
私もアレルギーマーチという考え方を知るまでは、漠然と「アレルギー体質だからアレルギー疾患を合併しているのだろう」と思っていました。
複数のアレルギー疾患が合併することは古くから報告されており、1970年に日本の馬場実先生が「アレルギーマーチ」という考えを提唱しました1)。
アレルギーマーチとはアレルギー体質の子どもが、年齢とともにアトピー性皮膚炎や食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を次々に発症していくという現象のことです。
食物アレルギーとは、本来は体に害を与えない食べ物を異物と勘違いし、免疫反応が過敏に働いてしまう現象です。2)
食物アレルギー発症のリスクに関連する因子としては、アレルギー疾患の家族歴や皮膚を守る皮膚バリア機能などが報告されていますが、なかでもアトピー性皮膚炎の有無が特に重要です。
実際、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎との関連の論文を集めて結果を統合した研究によると、アトピー性皮膚炎の子どもはアトピー性皮膚炎がない子どもと比べて6.18倍も食物に感作*されやすい(IgE抗体が作られやすい)と報告されています3)
なお食物アレルギー発症を引き起こす特定の遺伝子は突き止められておらず、遺伝子検査で食物アレルギーの発症を予知することは今のところできません。
では、なぜアトピー性皮膚炎が食物アレルギーの発症と関わっているのでしょうか。
それを説明する仮説が、あとで説明する二重抗原曝露仮説であり、アトピー性皮膚炎患者におけるフィラグリン遺伝子変異の報告を背景としています。
アトピー性皮膚炎の原因のすべては明らかになっていませんが、主に皮膚のバリア機能の異常と皮膚のアレルギー性の炎症が考えられています。
皮膚のバリア機能を担う主要なタンパク質の一つにフィラグリンと呼ばれるものがあります。
フィラグリンは、皮膚の角質細胞の中で細胞の強度を高める働きをし、最終的には分解されて天然の保湿成分として皮膚のバリア機能を高めます。
フィラグリンに遺伝子変異があると皮膚バリア機能が低下し4)、食物を含むアレルゲンの皮膚透過性(アレルギーを引き起こす物質が皮膚に浸透していく可能性)が高まります。
2006年にヨーロッパのアトピー性皮膚炎患者にフィラグリン遺伝子変異があることが発見され、フィラグリンはアトピー性皮膚炎の重要な発症因子であることが報告されました5)。
また日本人のアトピー性皮膚炎患者のフィラグリン遺伝子変異は、約27%と報告されています6)。
「二重抗原曝露仮説」は2008年にイギリスのLack先生が提唱した説で7)、「口から入ったアレルゲンは免疫寛容を誘導し(アレルギーにならない)、皮膚から入ったアレルゲンは食物アレルギー発症を誘導する」という、発表された当時は突拍子もない考えと思われた仮説です。
しかしその後、この説を支持する研究報告が集積してきました。有名なのが加水分解小麦配合せっけんによる健康被害が多発した事例です8)。
2009年以降、それまで小麦アレルギーのなかった女性に小麦アレルギー発症が相次ぎました。
推理小説のごとく犯人探しが行われ、加水分解小麦配合せっけんが原因と特定され、そのせっけんは販売中止となりました。
このせっけんにはなめらかな肌触りの泡にするための加水分解小麦が含まれていました。
もともと顔は毛穴が多いことから経皮吸収がよい部位です。
その顔に界面活性剤であるせっけんが作用して経皮吸収しやすくなったところに、小麦アレルゲンが存在していたため、小麦に対する経皮感作(小麦アレルギーへの発症準備が整った状態)が成立し、発症したと考えられています。
≪乳児期にスキンケアをすると食物アレルギーの発症を予防できる可能性あり≫
二重抗原曝露仮説を基に国立成育医療研究センターのグループは、アトピー性皮膚炎の親きょうだいがいる乳児を生後1週目から保湿剤によるスキンケアを行う群と、乾燥した部位にのみワセリンを塗布する群に無作為に分け、アトピー性皮膚炎の発症率を比較しました9)。
その結果、スキンケア群の方が、アトピー性皮膚炎の発症率が3割程度低かったと報告されています。保湿剤によるスキンケアにより皮膚バリア機能を高めることで、アトピー性皮膚炎の発症を予防できたといえます。この報告では、食物アレルギーの発症については明らかな結果が示されていませんが、アトピー性皮膚炎を発症した群では卵白に対するIgE抗体の値が高く、アトピー性皮膚炎発症が卵アレルギー発症と関連することが示唆され、さらなる研究が期待されています。
アトピー性皮膚炎は食物アレルギー発症の原因のひとつであるため、湿疹がある場合は適正な治療をすることで経皮感作を予防できる可能性があると考えられます。
また湿疹がない場合も乳児期は皮膚が乾燥しやすいので、保湿剤によるスキンケアを行うことで湿疹の予防、ひいては食物アレルギーの発症予防につながると考えられます。
『参考資料』
《執筆・監修》
小島 令嗣(こじま れいじ)アレルギー専門医
防衛医科大学校卒業。
山梨大学 社会医学講座
アレルギー専門医
専門分野:小児科学、アレルギー学、疫学・公衆衛生、母子保健
保護者の方が、休日・夜間の子どもの症状にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
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