2021.10.15
赤ちゃんと食物アレルギーの関連について、多くの妊婦さんやお母さんから以下の3つの質問を受けることがあります。
母子保健センターなどにも最新の情報が集まっているとは思いますが、この記事では現在日本のアレルギー専門家の間でのコンセンサス(共通認識)を、その背景や根拠とともに説明します。
一昔前まで、といっても15年前くらいまでは、例えば「妊娠中または授乳中には卵は控えめにしましょう」と医師が言っていたことがありました。
しかしこの指導は経験的なもので、根拠に乏しいものでした。近年このトピックに関する研究が蓄積され、それらの研究を統合した研究から、「妊娠中または授乳中に特定の食物を制限しても食物アレルギーの発症予防にならない」と報告されました1)。
それを受けて現在の日本の食物アレルギー診療ガイドライン2016(2018年改訂版)でも「食物アレルギーの発症予防のため、妊娠中や授乳中に母親が特定の食物を除去することは、効果が否定されている上に母親の栄養状態に対して有害であり、推奨されない。」となっています。
お母さんの中には、「赤ちゃんを食物アレルギーにしたくないから完全母乳でがんばる!」と意気込む方もいるかも知れません。
確かに報告されている研究の中にも、親きょうだいにアレルギー疾患があるハイリスク児において、「完全母乳栄養の方が牛乳アレルギーの発症を予防する」というものもあります2)。しかし一方で「完全母乳栄養が食物アレルギーの発症要因である」という報告もあります3)。
このように食物アレルギーの発症に関しては、完全母乳栄養の有効性の根拠は限定的です。
そもそも母乳が十分出ず、母乳栄養が難しい方もいますし、母乳に関してお母さんがストレスにならないような支援環境が最も重要です。
上記のトピックと同様に、一昔前までは、例えば「卵はアレルギーになりやすいから、遅めに始めた方がいい」と言われていました。しかし2015年に発表されたピーナッツアレルギーの発症に関するイギリスの報告から潮目が変わりました4)
ピーナッツアレルギーはないがアトピー性皮膚炎や卵アレルギーのある乳児を、生後4カ月以上11カ月未満からピーナッツ摂取を継続した群と5歳まで除去した群に無作為に分けて、ピーナッツアレルギーの発症率を比較したところ、ピーナッツ早期摂取群の方がピーナッツアレルギーの発症率が低かったという報告でした。
ただしアレルギーの発症頻度の高い食品を3カ月~5カ月に開始する早期導入群と、生後6カ月以降に開始する標準導入群を比較した研究では、食物アレルギーの発症に差はなく、むしろ早期導入群でアレルギー症状が出たケースもみられたことから、安易な早期摂取には注意が必要です5)。
日本からは国立成育医療研究センターのグループが、アトピー性皮膚炎の乳児において、生後6カ月から微量の加熱した卵を段階的に摂取した群の方が、12カ月まで摂取していない群に比べて鶏卵アレルギーの発症率が低く、かつ摂取に伴うアレルギー症状はなかったと報告しました6)。
この報告はとても注目され、この報告をうけて日本小児アレルギー学会から「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が出され、「アトピー性皮膚炎の乳児は、医師の管理のもと、アトピー性皮膚炎を寛解させて生後6カ月から微量の鶏卵摂取を開始することを推奨する」と提言されています。
なおアトピー性皮膚炎のない乳児の離乳食の開始時期に関しては、日本の「授乳・離乳の支援ガイド2019」にしたがって生後5~6カ月ごろからとし、開始を早めたり遅らせたりすることは推奨されていません。また既に卵アレルギーを発症した乳児に対して安易に卵摂取を促すことは危険なので、「食物アレルギー診療ガイドライン2016に準拠した対応をすること」とされています。
食物アレルギーの発症予防に関しては、妊娠中・授乳中に特定の食物を制限せず、母乳の出具合に合わせて授乳し、母子健康手帳に書いてあるタイミングで離乳食を進めていくことが推奨されています。
『参考資料』
《執筆・監修》
小島 令嗣(こじま れいじ)アレルギー専門医
防衛医科大学校卒業。
山梨大学 社会医学講座
アレルギー専門医
専門分野:小児科学、アレルギー学、疫学・公衆衛生、母子保健
保護者の方が、休日・夜間の子どもの症状にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
この事業は全国統一の短縮番号♯8000をプッシュすることにより、お住いの都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けられます。
厚生労働省ホームページ:子ども医療電話相談事業(♯8000)について