2022.03.22
1. 食物アレルギーとはこんな病気
2. 食物アレルギーの原因と症状
3. 食物アレルギーの検査でわかること
4. 食物アレルギーの治療法と薬
5. 食物アレルギーのホームケアと予防
アレルギーとは、アレルゲン(アレルギーを起こす物質)が体に入り、人にとって良くない反応(じんましん、呼吸困難、ショックなど)を起こすことをいいます。
アレルゲンには、ダニ、カビ、花粉などがありますが、食物アレルギーは、卵、牛乳、小麦などの特定の食物に対し、人の体が誤って異物と認識してしまいアレルゲンとなる病気です1,2)。
食物アレルギーの症状は、乳幼児期に最も多く、年齢とともに大きく減っていきます。
例えば、日本での調査結果では、食物アレルギーのある人は、乳児で約5~10%、幼児で約5%、小学生で1.5~3%となっていて、成長とともに食物アレルギーを起こす人が減っていくのが分ります3)。
ただ、中には成人になっても食物アレルギーの症状が続く人もいます。
人の体には、病原菌(ウイルス、細菌)などの異物を体から排除するために『抗体(こうたい)』を作り、体を守る『免疫』という仕組みがあります。
食物アレルギーは、免疫の仕組みが誤って食物を異物と認識してしまい、抗体を作ってしまうことが原因になります。
アレルギーを起こす抗体はIgE抗体(あいじーいーこうたい)と呼ばれます。
IgE抗体は、アレルゲンが体に入ることによって作られ、皮膚や粘膜にあるマスト細胞(肥満細胞ともいいます)の表面にくっつきアレルゲンが再び体に入ってくるのを待ちます。
この状態を感作(かんさ)と呼んでいます。
感作されただけではアレルギー反応は起こりませんが、感作された体に同じアレルゲンが再び入ってくると、IgE抗体がアレルゲンと結びつき、その刺激でマスト細胞からアレルギーを引き起こすヒスタミンなどの化学物質が放出され、これらの化学物質の働きでアレルギーの症状が引き起こされます(図1)2)。
食物アレルギーの原因となる食物(アレルゲン)には様々なものがありますが、年齢によってアレルゲンが変わってゆくのも食物アレルギーの特徴です。
主な年齢別アレルゲンは、0歳では卵、牛乳など、1歳では卵、牛乳、小麦など、2~3歳では卵、牛乳、小麦、ピーナッツなど、4~6歳では卵、牛乳、エビ・カニ類など、7~19歳ではエビ・カニ類、卵、ソバ、小麦などとなっています(表1)3)。
アレルゲンの特定は非常に難しいことが多いので、特定する場合には必ず医師にご相談ください。
食物アレルギーでは、体の様々な場所に様々な症状が現れます。
皮膚ではかゆみ・じんましんなど、目ではかゆみ・充血など、消化器では腹痛・吐き気など、口では口の中の違和感・唇のはれなど、呼吸器では声のかすれ・ぜん鳴(ゼーゼ、ヒューヒュー)・せきなど、全身症状では意識がなくなるなど、鼻でくしゃみ・鼻水などがみられます(表2)2,3)。
食物アレルギーの症状で最も注意が必要なのは、アナフィラキシーショックです。
アレルギーの症状が、同時に2つ以上出ることをアナフィラキシーと呼んでいます。
このアナフィラキシー症状が重くなり、頻脈(ひんみゃく:脈が速い)や血圧が下がる状態を📖アナフィラキシーショックといいます。
アナフィラキシーショックは、命にかかわることがあるので、ショックを起こしたらすぐに救急車を呼んで病院で治療を受けることが大切です1,2)。
食物アレルギーの診断では、症状や経過、患者さんの生活背景などを聞き取る問診が最も重要だといわれています。
「何をどれくらい食べたら、何分後にどんな症状が現れたか」などの聞き取りが行われます2)。
食物アレルギーの検査には、原因となりそうな食物を食べてみて症状が出るかどうかをみる食物経口負荷試験(しょくもつけいこうふかしけん)、原因となりそうな食物を1~2週間食べずにいて、症状がよくなるかどうかをみる食物除去試験、アレルゲンに対する血液中のIgE抗体の量を調べる特異的IgE抗体検査、アレルゲンエキスを皮膚にのせ、皮膚のアレルギー反応をみるプリックテストなどがあります。
これらの検査結果を診断の根拠としたり、診断の補助としたりします2)。
治療の原則は、医師の診断にもとづき最小限の範囲で原因となる食物を除去することです。
食物経口負荷試験の結果などを参考にして、除去する食物の程度と方法、期間を決めます2)。
IgE抗体検査で反応があったからといって、家族や周囲の判断で「念のために除去する」ことはせず、必ず医師にご相談のうえ行ってください。
また、食べても症状が出ない量まではむしろ積極的に食べたほうが、体を慣らして普通に食べられるようになる「耐性」を得るのによいといわれています4)。
ただし、アレルゲンである食べ物がそもそも苦手な食べ物である場合や、たまたまアレルゲンである食材が少量入っている食べ物を食べていたりすることもあるので量を増やさずに現状維持するだけでも良いかと思います。
食物アレルギーの症状が出るのを予防する薬や完全に治す薬は、現在のところありません。
食物アレルギーによって起こるアトピー性皮膚炎には、症状を軽くする対症療法としてクロモグリク酸ナトリウムの飲み薬が処方されます。
また、じんましんなどの皮膚のかゆみには▶📖抗ヒスタミン薬の飲み薬や塗り薬が処方されます。
アナフィラキシーショックを起こした経験のある人や、今後起こす可能性が高い人には、アナフィラキシーショックの補助治療薬としてアドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン🄬)が処方されます2)。
家庭や保育所、幼稚園、学校では以下のような対応を行います1)。
(1) 原因となる食物を除去します
(2) じんましんなどの皮膚の症状では、濡れたタオルなどで、患部を冷やしながら様子をみます
(3) 抗ヒスタミン薬などのかゆみ止めの薬が処方されていれば飲ませたり塗ったりします
(4) せき込みや1回だけのおう吐がみられたら、救急外来を受診します
(5) ぜん鳴、おう吐の繰り返し、頻脈(脈が速い)や、元気がない様子がみられたら、すぐに救急車を呼んで病院に連れて行きます。また、アドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン🄬)が処方されていれば、このとき注射します
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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