2020.07.13
命を育むということは、生命の歴史、すなわち約35億年も続く「いのちのリレー」に参加することだといえるかもしれません。
人間の赤ちゃんは、十月十日(トツキトオカ)といわれるように長い時間をかけてお母さんの身体の中で育まれます。お母さんが摂取した栄養や酸素が胎盤を通して赤ちゃんに届き、成長していきます。つまり、妊娠中からもう育児は始まっているともいえます。とはいえ、お母さんは今から起こる身体の変化や出産に対する期待と不安で、胸がいっぱいになっているかもしれません。
妊婦の多くは、妊娠する前とほとんど同じように、仕事中心の生活を送っているのではないでしょうか。仕事が忙しく、食事はコンビニやスーパーのでき合いのものを食べ、就寝は0時過ぎ。ほとんど歩かずに、職場でも座りっぱなし。おそらく、このような生活となってしまっている方もいるかと思います。
妊娠は病気ではなく、生理的な身体の変化だといえますが、その変化は、母体にとても負担がかかるものです。たとえば妊娠後期の血液量は、非妊娠時の1.5倍ほどになるため、その分心臓にも負担がかかります。もちろん、時間をかけて徐々に身体は適応していきますが、マイナートラブルと呼ばれる妊娠中の不快症状も、治療できないものがほとんどです。それらは無事出産が終わるまで、仕方のないこと。妊娠すると、女性の身体は非妊娠時よりも弱くなりがちです。だからこそ、普段以上に身体をいたわって健康的な生活を心がけ、新しい命を育んでいく必要があります。
妊娠期に早く寝て、適度に身体を動かし、栄養価のある食事を摂取し、身体を温める、といったことを徹底的に行うことが大切です。自分の身体に意識を向けて、衣食住を整えること、生活の知恵を積み上げておくこと、自分で自分の身体を知ること、自分の身体が心地よいと感じる状態を知っておくことは、出産のためにはとても重要なことなのです。妊娠期のこのような生活改善は、女性の心身のバージョンアップの機会になり、たくさんの気づきのきっかけを与えてくれるでしょう。
日本では、安産の象徴である犬にあやかり、妊娠5カ月目の戌の日に「岩田帯」を巻くという安産祈願の風習があります。帯をしめることには、「岩のように丈夫な赤ちゃんを」という願いが込められている他に、大きくなったお腹を支え、腰痛を防いだり、お腹を温めたりする効果もあります。そして、お母さんは帯を巻きながら、お腹の子どもを守り抜く覚悟を育んできたのだと思います。
妊娠は生理的な現象とはいえ、身体がつらいだけでなく、何かあったら傷つくのは自分だけではないという責任感で泣きたい気持ちになることもあるでしょう。そんな時は一人で抱え込まず、誰かを頼ったり、相談したりということを練習してみてください。
「自分は、今こういうことがつらいんだ」と伝える努力。「困っているから、助けて」と、サポートをお願いし、それを快く受け入れる「受援力」。これは、出産や子育てを行う上でとても重要な能力です。助けてもらうことによって、人とのつながりがさらに深まることもあります。そして、その力はより大きなものとなって、赤ちゃんや他の人に還元することができるようなエネルギーの源にもなります。助けを借りるということは、誰かの愛を受け取ることでもあるのです。
《 監修 》
濵脇 文子(はまわき ふみこ) 助産師
大阪大学大学院医学系研究科招聘准教授。
助産師・保健師・看護師。
産前産後ケアセンターヴィタリテハウス施設長。
はぐふるアンバサダー。
妊娠から産後まで、一人一人に寄り添い幅広くサポートを行う。
また、自治体や企業とマタニティーソリューションの事業構築や講演・執筆活動、専門職の教育研究にも携わる。
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