2020.12.21
育児休業とは、原則として1歳に満たない子どもを養育する労働者が、会社に申し出ることにより、子どもが1歳になるまでの間で希望する期間、育児のために休業することができる制度のことです。1)
近年、育児休業を取得する男性について、メディアで取り上げられることがあります。
「子育てにじっくりと向き合うことができた」といったプラスの体験談と、職場内で「周りの目が冷たくなった」「評価を下げられた」というマイナスの体験談がないまぜとなり、論点が整理されないままに情報が垂れ流されている印象を受けます。
今回は、その「男性の育児休業」の実態をお伝えします。
※本記事は2020年8月に作成されたものです。
※2021年11月関連リンク追加
育児休業を取る男性は、世の中どの程度いるのでしょうか。
2018年度の雇用均等基本調査では6.16%、2019年度の同調査では7.48%となっています。
1%程度という時代もありましたので上昇傾向にあるとはいえますが、政府が目標として掲げる13%には程遠い状況です。
また、▶産休中・育休中の社会保険料はどうなる?の記事でも紹介をしておりますが、育児休業中は社会保険料が免除され、「その判定は月の末日に取得しているかどうか」ですから、月末に「1日だけ育児休業を取得」する男性も一定数います。
この調査では「取得日数」は考慮されていませんので、実質的にはもっと低い数値であるとの予測もできます。そもそも「メディアで取り上げられる」ということ自体、まだまだ一般的という認知がされていないという証拠といえるでしょう。
男性の育児休業取得率が上がらないのは、会社側の問題なのでしょうか。
少なくとも、筆者の雑感ではありますが、「男性が育児休業を取ること」を想定して運営されている会社は少数派です。単純に「休まれると仕事が回らなくなる」ことに加え、感情論として「男が育休?」とやる気を疑う風潮は根強く残っています。
性別や世代を問わず、男性が育休を取得することに対して偏見を持つ人が一定数存在し、取得するにあたって心理的な抵抗が強いことは事実としてあるでしょう。
反面、男性社員側の声として、「特に取りたくない」という声も聞きます。
会社として、「くるみんマーク」※を取得したいという思惑や、企業イメージの向上などを理由として、積極的に「男性の育児休業」を推奨し、取得率を上げようとする会社も存在します。
しかし、そういった会社側からの働きかけに対しても、「メリットがない」などという残念な反応をする方も少なくありません。
男性側の機運すら高まっていないのですから、「育休を取得する」ということは、たとえ1週間程度でも勇気のいることでしょう。
「取得したいけどためらってしまう」もしくは「初めから選択肢として考えていない」というのは、同僚や上司の偏見以外では、何が原因なのでしょうか。「そもそも取得を認めてもらえない」という明確に違法なケースもありますが、多くは「評価」「賞与(ボーナス)」に響くという声です。
①評価について
女性と同様に「育児に関する制度利用を理由に不利益な取り扱いをすること」は、育児介護休業法に違反します。法律上の用語ではありませんが、このような取り扱いは、マタハラの男性版としてパタニティハラスメントとも呼ばれます。▶「マタハラ」「パワハラ」を受けたらどう対処したらいいの?の記事を参考に、対処することが可能といえます。
ただ、会社が定める人事制度の規定上、査定期間中に一定期間の休業がある場合には評価(昇給・昇格等)を行わないとされていることもあります。
実際に勤務が発生していない期間があるわけですから、こればかりは仕方のないことといえます。
次の査定期間に影響したとなれば、それは当然ハラスメントです。
また、長期的視点に立って、「出世に響くのでは」という声もあり、前述の「くるみんマーク」取得を目指すなどといった会社でない限りは、なかなかそういった漠然とした不安に打ち勝てないといった事情もありそうです。
②賞与(ボーナス)について
賞与がある会社では、育児休業がその金額に影響を与える場合があります。
賞与の規定は会社の裁量が大きいので、非常識な規定でない限りは、仕方のないことといえます。
「お金の問題ではない・・」といいたいところですが、いいか悪いかは別として、賞与が一定金額もらえることを前提に生活設計をしている家庭もあります。
会社側の配慮として、「2週間以内の育児休業なら賞与額に影響しない」などと規定している例もあります。
※月給について、育児休業中は無給とする会社が多いですが、雇用保険から「育児休業給付金」が支給され(非課税)、なおかつ社会保険料の免除もありますから、実質月の手取り分は補償されるといえます。(詳しくは▶出産前に退職すると…もらえなくなるお金がある!?(出産手当金と育児休業給付金について)の記事をご参照ください)
上記のように、男性の育児休業にはまだまだ心理的なハードルがあるといえます。
国の制度(ハード面)は既に整っているといえますので、会社と世間(特に男性社員)の意識(ソフト面)の改善が必要でしょう。
「会社側がメッセージを発すること」と「男性側が意識を変えなくてはいけないこと」の両方が必要不可欠です。
「男性の育休取得はメリットがない」という悲しい言葉がでないよう、「幼いわが子と過ごす、かけがえのない時間」に価値を見いだすことが大切です。
1) 厚生労働省:育児休業や介護休業をすることができる有期契約労働者についてhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r01_12_27.pdfを加工して作成
《 監修 》
木幡 徹(こはた とおる) 社会保険労務士
1983年北海道生まれ。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則整備・人事制度構築・労務手続きフロー確立など、労務管理全般を組織内から整える。スタートアップ企業の体制構築やIPO準備のサポートを主力とし、企業側・労働者側のどちらにも偏らない分析とアドバイスを行う。
▶HP https://fe-labor-research.com/