2021.04.21
妊娠中 に健康的な状態を継続するためには、健やかな身体が基本となります。命は、命あるものでしか支えることはできません。
そして、健やかな身体に欠かせないのが、バランスの取れた質の良い食事です。
「和食を中心に、野菜たっぷりの食事を、できるだけ自炊で」
「3食しっかり取る」
といったルールを設けている人も多いのではないでしょうか。食は習慣ですので、毎日・毎食の積み重ねが大切です。
しかし、朝・昼・晩の3食すべてで完璧な栄養バランスを実現するのはそう簡単ではありません。あまり神経質になりすぎると、ストレスがたまって逆効果になる可能性もあります。
まずは現代の日本人に不足しがちな栄養素を理解し、無理なく食事に取り入れてみましょう。
・妊娠時期に応じて食べる量を調整しましょう
妊娠中の体重の適切な増加量は、赤ちゃんの成長発達、増加体重に比例します。また、胎児の成長発達に伴い、妊娠時期に応じて必要な栄養素の割合も変化します。
厚生労働省が提示している妊娠中の食事についての注意点や栄養のバランスガイドのパンフレットを参考に調整を行いましょう。
▶厚生労働省:妊娠中と産後の食事について
・栄養のバランスを配慮しましょう
妊娠中、母体は必要な血液の量が増え、妊娠を継続するため、赤ちゃんを育むためにも非妊娠時よりも栄養が必要です。
特にやカルシウムなどは不足する傾向にありますので、積極的な摂取を心がけましょう。
・加工食品は控えましょう
加工食品は、その手軽さから頻繁に利用してしまいがちですが、カロリーや脂肪、塩分、糖分、食品添加物の過剰摂取につながります。
自分の体に入るものですので、ぜひ意識を向けてみましょう。
・よく噛んで食べる
噛むと唾液腺が刺激され、唾液がたくさん出てきます。唾液には細菌や食べかすなどを洗い流す作用、細菌の増殖を抑制する作用、免疫力を高める作用、唾液に含まれる酵素(アミラーゼ)による消化作用、酸性に偏った口の中を中性に戻す作用、歯の再石灰化を促し虫歯になりにくくする作用、口臭を減らす作用など様々な重要な働きがあります。
妊娠中は、歯周病のリスクが増加しますので、トラブルの予防のためにもよく噛んで食べることを心がけましょう。
・規則正しい食生活を
朝食を抜くなど、不規則な食生活になると血糖値が乱れやすくなります。
また、血糖値が上がり妊娠糖尿病になった場合は血糖のコントロールが難しくなり、治療が必要になります。
母体だけではなく胎児にも合併症が起こる可能性もありますので、栄養バランスや食べる時間、食べる量を考え、正しい食生活を送ることが大切です。
・炭水化物
炭水化物は主要なエネルギー源で、不足すると身体にとって必要な筋肉まで落としてしまうことになります。体温をしっかりと上げるためにも、良質な炭水化物を食べることが重要です。玄米や全粒粉などの精白されていない食材は食べても太りにくいといわれ、食物繊維も豊富に含んでいます。糖質制限などで何かと敵視されがちですが、糖質は腸内細菌にとって重要なエネルギー源であり、糖質が減ると善玉菌も同時に減ってしまいます。お菓子や清涼飲料水に含まれる過度な糖質をカットすることは有効ですが、炭水化物を抜くことは、食物繊維の不足にもつながるため、腸内環境にとってリスクが高くなります。
・たんぱく質
英語では、たんぱく質のことをプロテインといいます。その語源はギリシャ語で、「第一に重要なもの」という意味です。たんぱく質は、アミノ酸の集合体です。肉・魚・大豆・卵など、たんぱく質の種類にもいろいろありますが、人は消化吸収を経て分解されたアミノ酸を、「筋肉」や「ホルモン」の材料となるたんぱく質に合成することで、健やかな身体を作っていきます。
・脂質
脂質を取ると太る、という思い込みを持ってはいないでしょうか。実は、脂質は脳の発達にとって欠かせない栄養素です。脂質には、バターのように常温で固体の「飽和脂肪酸」と、植物油のように常温で液体の「不飽和脂肪酸」があります。不飽和脂肪酸には、人体で作り出すことのできない「必須脂肪酸」が含まれています。
・ビタミンD
ビタミンDは、腸管からのカルシウム吸収を促進し、腎臓からの排泄を抑制することによりカルシウム濃度を上昇させます。妊娠中のビタミンD不足や欠乏は母体の妊娠高血圧腎症リスクの増加や出生体重を低下させる恐れがあります。さらに、赤ちゃんへの影響としては、妊娠中のビタミンD欠乏と新生児の成長後の低骨量との関連も指摘されています。妊娠中は、ビタミンDを豊富に含む魚やキノコ類、卵の摂取を意識しましょう。
・鉄分
妊娠中は、胎児の成長や胎盤形成に伴う鉄貯蔵、循環血液量の増加に伴う赤血球の増加のため、鉄分の必要性は増大します。特に、妊娠後期は必要量が多く、妊娠中期・後期には21~21.5mg/日の鉄分の摂取が推奨されています。食物中に含まれる鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。それぞれの鉄分の吸収率と特徴は以下の通りです。
・ヘム鉄吸収率
一緒に食べる食品内容の影響は受けず、肉類や魚介類など動物性食品に多く含まれています。
非ヘム鉄吸収率
一緒に食べる食品で吸収率が変わります。大豆・豆類・ほうれん草に多く含まれ、たんぱく質やビタミンCを一緒に取ると吸収が良くなります。
・葉酸
妊娠中期以降にも、胎児発育や妊娠合併症予防に重要な役割を果たすビタミンです。葉酸欠乏とそれに伴って生じる高ホモシステイン血症では、胎児発育遅延や早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離のリスク増加にも影響するといわれています。ブロッコリーやほうれん草などの緑黄色野菜,イチゴなどの果物に多く、枝豆や納豆にも含まれます。
日本は昔から、米を主食とし、副食に野菜や芋、魚介、海藻などを使った食生活を続けてきました。
とてもバランスがよく、日本人の体には適しています。しかし海外からの食文化が入ってきたことで、食のスタイルも多様化。
その中で、生活習慣病などの病気も増加し、最近は伝統的な和食が見直されつつあります。
自分が生活している、土地のもの、旬のものを取る和食は、命を育む食そのものです。
和食の利点は下記があげられます。
・栄養のバランスが良い
主食、主菜、副菜がそろっていて栄養バランスが良く、理想的な献立としてよく聞く言葉が、“一汁三菜”です。これにご飯と漬物が加わり、日本の伝統的な献立となります。
汁は野菜や海産物、豆腐などが入った味噌汁や潮汁、漬物は塩漬けや糠を使った糠漬け。三菜はご飯をおいしく食べるための副菜で、こうして考えると数多くの品目を取っていることに気づきます。また、汁物は食べ過ぎを防ぐことができるメリットもあります。
・ 低脂肪、低カロリー
伝統的な和食は、米を中心とする穀類、野菜、魚介類と海藻が主な食材です。
脂肪分は、魚介類の良質な油を取ることができます。肉食文化が強い欧米に比べると脂肪分が少なく、カロリーが低い食事が多いのも和食の魅力の一つです。
・素材の良さを活かした薄口の味付け
和食のおいしさの一つに、“旨味”があります。
昆布や鰹節でとった出汁を使い、煮物や汁物など様々な料理に活用されますが、奥行きのある味を生むだけでなく使う調味料を減らせるというメリットもあります。また、この旨味は、味覚の発達を促します。
・ 発酵食品が豊富
味噌や醤油、御酢、塩麹なども和食ならではの調味料ですが、これらは免疫力や消化能力などを高めるために有効な「発酵食品」です。
炭水化物の消化を促すための酵素を豊富に含むため、和食には欠かせないものといえます。納豆も発酵食品の一つで、整腸作用により体の中からキレイにしてくれる食材です。和食には善玉菌を増やす発酵食品が多く、便秘解消にもなるので、積極的に取りたいですね。
「まごわやさしい」という言葉を聞いたことがありますか。これは、積極的に取り入れたい食材の頭文字をとったフレーズです。
具体的には、
【ま】豆類(納豆や枝豆など)
【ご】ゴマやナッツ類(黒ゴマ、白ゴマ、すりごま、カシューナッツ、アーモンドなど)
【わ】海藻類(ワカメやヒジキ、もずくなど)
【や】野菜(かぼちゃやにんじん、ほうれん草などの緑黄色野菜がおススメ)
【さ】魚(アジやサバ、サンマなどの青魚がおススメ)
【し】キノコ類(しめじ、しいたけ、エノキタケなど)
【い】イモ類(じゃがいも、サツマイモ、サトイモなど)
これらの食材を使ったメニューを中心に、味付けは出汁などをうまく使用して、薄味を心がけるのがポイントです。
私たちの体は、私たちが食べたものでできています。おなかの赤ちゃんも健やかに成長できるよう、栄養バランスや規則正しい食生活を心がけましょう。
『参考資料・サイト』
・厚生労働省:平成29年国民健康・栄養調査結果の概要
・日本人の食事摂取基準(2020年版)の策定ポイントについて
・国立栄養研究所
・LUVTELLI BABY BOOK,THE FIRST EDITION.
《 監修 》
濵脇 文子(はまわき ふみこ) 助産師
大阪大学大学院医学系研究科招聘准教授。
助産師・保健師・看護師。
産前産後ケアセンターヴィタリテハウス施設長。
はぐふるアンバサダー。
妊娠から産後まで、一人一人に寄り添い幅広くサポートを行う。
また、自治体や企業とマタニティーソリューションの事業構築や講演・執筆活動、専門職の教育研究にも携わる。
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