2021.05.21
「すべての病気は腸に始まる」とは、医学の父として知られるヒポクラテスの言葉で古代ギリシャ時代から腸の重要さが説かれてきました。
私たちの腸内には多種多様な細菌が生息していて、それらの数は約1,000種、100兆個以上ともいわれています。
これらの様々な細菌が互いのバランスを取りながら、腸内環境を良い状態にしています。
細菌は、
・善玉の菌
・悪玉の菌、
・そのどちらでもない中間の菌
と、大きく分けて3グループで構成されています。
乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などが善玉菌と呼ばれる一方で、病気を引き起こすのは、クロストリジウム菌、ブドウ球菌などといったいわゆる悪玉菌です。
さらに、人には通常無害ですが、身体が弱ってくると悪さをするプロテウス菌、大腸菌などの日和見(ひよりみ)菌があります。
小腸の終わりから大腸にかけての腸の壁は、腸内細菌が種類ごとに分布しており、植物が群生している花畑(flora)のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。
近年では、腸内フローラのバランスの乱れが体調に影響を与えることが明らかにされています。
腸内フローラは乳幼児期までに急激に成長し安定化され、老年期までほとんど変わらず安定的に維持されることも、近年の研究で明らかになっています。
では、その大切な腸内フローラは赤ちゃんの場合どのようにして育まれるのでしょうか。
1:赤ちゃんのいる期間との関係
35週未満で産まれる赤ちゃんは、身体機能が未熟な状態ですので、重症感染症のような合併症にかかるリスクが高く、腸内フローラの形成に影響がある可能性があります。
在胎期間が30~35週の早産では、正期産児に比べて腸内フローラの多様性が低く、ビフィズス菌や乳酸菌などの検出率が低いことも報告されています。
特に在胎期間32週目を境に、善玉菌の一つであるビフィズス菌の数が少なくなることも確認されており、良好な腸内フローラの作成に影響を及ぼします。
2:方法による変化
自然分娩で生まれた赤ちゃんと帝王切開で生まれた赤ちゃんとでは、腸内フローラの形成過程に違いがあります。自然分娩で生まれた赤ちゃんの胎便中の菌そうは、出産前のお母さんの膣内細菌そうと類似しており、赤ちゃんが生まれた環境にすばやく順応できるようになっています。一方、帝王切開で生まれた赤ちゃんは、ビフィズス菌や乳酸菌の腸内への定着が遅いことが多数報告されています。
3:授乳形態
母乳哺育の期間も腸内フローラ形成に関わりがある可能性が報告されています。
母乳のみで育てた赤ちゃんと、人工乳または混合乳で育てた赤ちゃんとでは、腸内フローラを構成する細菌に違いがあります。母乳で育てた乳児の腸内には、乳酸菌やビフィズス菌が多いことが数多く報告されていて、出生後6カ月間行うことで、悪玉菌の検出率が下がることも示唆されています。もちろん、人工乳にも腸内細菌に働きかける栄養素が含まれていますので、問題ありませんが、少量でも母乳を与えることで善玉菌のフローラ形成が促進されるので、可能であれば母乳をあげましょう。
また、母乳は脂肪・タンパク質・炭水化物・ミネラルなどの栄養素を含んでおり、人工乳に比べて感染防御作用のある免疫グロブリンやラクトフェリンなどを多く含みます。
『参考資料・参考文献』
厚生労働省 e-ヘルスネット
牧野博ほか. 新生児・乳児期の腸内細菌叢とその形成因子. 腸内細菌学雑誌 33(1): 15-25, 2019
《 監修 》
濵脇 文子(はまわき ふみこ) 助産師
大阪大学大学院医学系研究科招聘准教授。
助産師・保健師・看護師。
産前産後ケアセンターヴィタリテハウス施設長。
はぐふるアンバサダー。
妊娠から産後まで、一人一人に寄り添い幅広くサポートを行う。
また、自治体や企業とマタニティーソリューションの事業構築や講演・執筆活動、専門職の教育研究にも携わる。
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