2021.09.17
産後クライシス とは、出産を機に良好な夫婦の関係が急に悪化する状態をいいます。
些細なことで配偶者にイライラしたり、気持ちが冷めてしまったりとパートナーへの愛情の変化が起こります。
出産直後の夫婦に多く起こる現象とされており、前もって夫婦仲の改善対策がなされていないと、家庭が壊れることもあります。
皆さんは子どもが生まれた後はどのような生活が始まると考えていますか?
今より更に夫婦の愛情が深まって、毎日楽しい家族生活が始まると考えていますか?
もちろん、子どもが生まれて以前よりも夫婦の愛情が深まる家族もいますが、実際は新しい家族生活が始まると、思っていた以上に体力や神経を使うため、なかなか理想通りにはならずに疲労やストレスがたまって産後クライシスに陥る夫婦も多くいます。
女性は、妊娠から出産の過程でホルモンバランスに大きな変化が訪れます。
妊娠中はお腹の中で赤ちゃんを育てるホルモンが大量に分泌され、出産すると今度はホルモンの分泌量が急激に減るため、産後はホルモンバランスが崩れます。
また、赤ちゃんが生まれた後はお世話が始まりますが、赤ちゃんは言葉も話せず、夜泣きもたくさんしますので何をしてほしいのか正解が分からず不安が募ることも多いでしょう。
おむつの交換や、授乳など身の回りの世話など今まで以上にやることが増える上に、まともに自分の睡眠や食事の時間も取れなくなることから、心身共に疲労やストレスが溜まります。
そして、そのたまったストレスは一番近くにいる家族、大抵は身近にいる夫に向けられることが多いようです。
今の日本では、夫が仕事に行っている間、妻が一人で子育てをおこなっているケースが多く、日々の家事や子どもの世話で、子育てへの漠然とした不安を抱くようになります。
不安に思う日が続くほど精神的に不安定になり、家に帰ってきた夫に対して不安やイライラをぶつけてしまうのです。
夫も「なんでいつもイライラしているんだ」と様子が変わってしまった妻に不満を抱きます。
相互の不安と不満の積み重ねが、産後クライシスにつながります。
たくさんコミュニケーションが取れていた夫婦でも、子どもが生まれると会話が減ってしまい、夫婦がすれ違うようになりがちです。日常的な「会話*」はもちろん大切ですが、妊娠期から産後は「対話*」によるコミュニケーションの重要度が増します。
なぜなら、産後は新しい役割や、想定外の出来事などが多く起きるからです。
家事、子育て、仕事、お金、住まい、セックス、自由時間、祖父母との関係など、多様なテーマで現実に向き合い、お互いにとって心地よい「子育てや暮らし方」を模索していくことは容易ではありません。
時には、「言えば喧嘩になる」「気まずくなる」という場面もあるでしょう。
しかし、ネガティブな感情を乗り越えていかない限り「夫婦の信頼関係」を深めようがありません。
生涯を共に歩むと決めた相手に対して自分の感情や考えをきちんと伝え、大切なことを話し合って決めていきましょう。
①言葉にして伝えよう
まず、最初に伝えたいのがこの「言葉にして伝える」ということです。
日本には、以心伝心という美しい言葉がありますが、産後クライシスの根本原因は「夫が気づいていない」ということだったからです。
男性は、子どものことや体調のことなど、言われないと分からないことがたくさんあります。
なんでわかってくれないのだろうと思うよりも、相手にはっきり伝えてしまった方がスッキリするでしょうし、夫も自分のすべきことがわかるため、言葉で伝えたほうが良好な関係を築けるでしょう。
お願いをするときは、いくらイライラしていても、きつい言い方にならないように気をつけてください。
②してほしいことの伝え方
言葉にすることの大切さを①で述べましたが、「言葉」にしただけでは相手に伝わらないことがあります。
では、どうすれば相手に伝わりやすい言葉になるでしょう。
コミュニケーションに詳しい作家の先生によると、「も」を気にすると良いそうです。例えば、いつ「も」お仕事お疲れさまです。日々の感謝を忘れず。
あなた「も」大変だったね。と、相手をねぎらい、せめて〜だけで「も」してほしいなと、限定譲歩でお願いをすると、相手も受け入れやすいそうです。
③夫を頼る・褒めることを意識
完璧を求めてはいけません。
「良妻」は産後クライシスへの近道といわれるくらいです。
これは、夫に対しても、自分自身に対してもです。
家事、育児、半分よりちょっと多いくらいを目指しましょう。
子どもが生まれると、「赤ちゃんのことは全部自分でやろう」と頑張りすぎてしまう人がいます。
頑張りすぎず、夫を頼ることも産後クライシスを乗り越え良好な夫婦関係を築くために必要といえるでしょう。
夫が協力してくれた時は、どんな小さなことでも「あなたのおかげで助かっているよ」と褒めてあげてください。
①言葉の使い方を意識してみましょう
「言葉にして伝える」大切さは、夫婦共々大切です。
しかし、その言葉も使い方によっては逆効果になることがあります。
例えば、赤ちゃんがミルクをこぼしたとします。
すると夫が「手伝おうか」と言いました。
この会話、産後にはNGとなることが多いそうです。
手伝おうかとは、当事者意識のないワードで、妻をがっかりさせる言葉だそうです。
理想的な言葉は「〜やっておくね」といった主体性のある言葉だそうです。
そのレベルに達していないという方は、まずは「〜てどうやればいいの?」から始めてみませんか。
②育児休暇をとりましょう
まずは、1週間でも良いので育児休暇や有休を取得してみましょう。
いつもは、妻が担っている家事を行い、大変さを共有し、育児技術の習得をおこないましょう。
最初の子どもなら、退院後がおススメです。
二人目以降なら妻が入院してから(上の子の面倒を見るため)がベストです。
③家事、育児よりも大切なもの
産後クライシスを回避するために、もっとも効き目があるのは「ねぎらいの気持ち」です。
子育てに追われる中、「育児お疲れさま」のたった一言で、気持ちが楽になることもあります。
ねぎらいの気持ちを、言葉や態度で示しましょう。
それは、自分に対してもです。妻に対する気遣い、頑張っている自分へのねぎらいも。
そして、お互いを大切にしましょう。
産後クライシスは、「オキシトシン」というホルモンの影響が大きいともいわれています。
オキシトシンは、出産時や産後の授乳時、わが子と触れあっている時などに多く分泌され、脳に作用して、わが子やパートナーへの愛情を強める働きをしています。
ところが、愛情だけでなく、同時に「他者への攻撃性」を強める作用もあります。
たとえ夫であっても、育児に非協力的な場合は「攻撃の対象」となり、夫婦関係の破綻を招く恐れもあるというのです。
オキシトシンを「攻撃性」ではなく「愛情」を強める方向に働かせるには、夫が妻の育児相談に真剣に耳を傾けているだけでも、妻のリラックス状態が安定して続いていることが報告されています。
大事なポイントは、育児で常にストレスを抱えがちな妻の状況に、寄り添いの気持ちを示すこと。
物理的に子育てを分担することももちろん大切ですが、一人でおこなう子育てのつらさを理解し、共感し、「よくがんばってるね」と認めてあげることが、オキシトシンの作用でイライラを感じやすい妻の心を安らげ、円満な夫婦関係にもつながります。
産後クライシスで激変する妻に戸惑う男性も多いと思いますが、妻がトゲのある言い方をしてきても、今は、こういう時期だと受け入れ少しずつ妻のことを理解していきましょう。
《 監修 》
濵脇 文子(はまわき ふみこ) 助産師
大阪大学大学院医学系研究科招聘准教授。
助産師・保健師・看護師。
産前産後ケアセンターヴィタリテハウス施設長。
はぐふるアンバサダー。
妊娠から産後まで、一人一人に寄り添い幅広くサポートを行う。
また、自治体や企業とマタニティーソリューションの事業構築や講演・執筆活動、専門職の教育研究にも携わる。
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