2022.03.11
妊娠期間は10カ月=40週とされていますが、すべての人が予定日通りのお産になるわけではありません。
予定日よりずっと早い人もいますし、予定日を過ぎてもなかなか生まれない人もいます。
妊娠37週0日から41週6日までの5週間を「正期産」と呼び、それより早く生まれる場合を「早産」、遅く生まれる場合を「過期産」といいます
なお、妊娠22週未満で生まれてしまう場合を流産と呼びますので、日本では早産と呼ぶ期間は22週以降からになります。
日本産科婦人科学会のデータでは、全妊娠の約5%が早産になっています(2022年1月現在)。
つまり、20人に1人くらいの確率で早産になります。
今回は、早産でどんなことが起こるのか、切迫早産との違い、早産になりやすいリスク、そして、切迫早産への対処法などをご紹介します。
一方、切迫早産とは、「早産になる可能性がある状態」という意味で、まだ生まれていません。
規則的におなかが張って子宮の出口がわずかに短くなった場合や、張りの自覚がないのに、子宮口が少し開いているような場合に切迫早産と診断されます。
切迫早産と聞くと、今にも早産になってしまいそうな切迫した状況を想像しますが、中には、すぐにお産にならないケースもあり、切迫早産で長く入院したのに、実際は予定日を過ぎて出産をした、なんてことも少なくありません。
34週を過ぎていれば、NICU(新生児の集中治療室)のある病院なら、後遺症を残さないで退院(インタクトサバイバル)できる確率が非常に高くなります。
36週よりも早産であった場合は、適切に治療を行っても、脳性麻痺や未熟児網膜症を代表とする、未熟児に好発するさまざまな後遺症を避けられないことも多くなります。
28週以降の赤ちゃんの平均的な体重は1000g以上で、生存率も97%以上といわれていますが、28週未満の場合は、最善の治療をしたとしても救命できないケースもあり、ある程度の後遺症は高確率で残ります。
日本では1979(昭和54)年までは、28週未満は流産として扱われていました。
国によっては現在でも28週を生存できる境界としているところもあります。
新生児科医師の尽力で、日本では24週以降であれば、90%以上の救命率を期待できるようになっていますが、少しでも正期産に近い方が安全であることはいうまでもありません。
早産にはいろいろな原因があり、不明なことも多いのですが、リスク因子(こんなことがあったら早産になりやすい)はある程度分かっており、代表的なものを以下に列挙します。
早産の既往、子宮頸管長の短縮(円錐切除も含む)、妊娠前の痩せ(BMI18.5未満)、
6cm以上の子宮筋腫合併、子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)、多胎妊娠、高齢初産、
喫煙(受動喫煙も含む)、重労働や夜勤労働、妊娠中の性交渉、虫歯・歯周病 など
気をつけても改善しようがないものも多いのですが、避けられるものもあります。
喫煙は、流早産のリスクを2倍前後に高めます。
受動喫煙でも同様と思われますので、妊娠が分かったら、パートナーも含めて、ぜひ禁煙をしてください。
妊娠中の性交渉は出血の原因になりますし、コンドームを用いない場合は、子宮内感染や早産を助長することが知られています。
また、虫歯や歯周病についても、妊娠中にきちんと通院して治療しておくことが大切です。
定期的な妊婦健診が大事なことはもちろんですが、普段でも次のような症状があったら、次の受診日を待つことなく、すぐに受診しましょう。
・いつもと違うおなかの張りが規則的に起こる
・おなかや腰に痛みが出る(生理痛に似ている)
・出血があり、いつもより多い
・悪臭のあるおりものが出る
おなかの張り程度なら大丈夫だと思いがちです。
実際、大丈夫なことの方が多いのですが、もしかしたら切迫早産の徴候かもしれません。
いつもと違う感覚があれば、必ずかかりつけの産婦人科を受診しましょう。
生理痛は、子宮の内膜を外に出すときの子宮の収縮痛ですので、切迫早産の痛みを「生理痛に似ている」と感じる方は多いです。
これも一つの目安になるでしょう。とにかく、迷ったら外来受診してください。
お仕事のある方はどの程度まで安静にすべきかを確認してください。
自宅ではできるだけ横になっていた方がいいのか、軽い家事ならしても構わないのかなど、医師に指示された安静のレベルをきちんと守ることが大事です。
いわゆる「張り止め」という内服の薬がありますが、効果は個人差が大きく、最近は全く使わないという産婦人科の医師も増えています。
薬を飲んで仕事をなんとかしよう、ではなく、とにかく安静を優先してください。
一方、子宮の収縮が強く、子宮口がかなり開いている場合は、入院して子宮収縮抑制剤や抗生剤などによる治療を行います。
特に症状がないのに子宮口が開きやすい頸管無力症(けいかんむりょくしょう)では、子宮の出口を縛る手術を行うこともあります。
ただし、手術そのものが早産を助長する可能性もありますので、手術すべきかどうかについては、担当の医師とよく相談してください。
母子手帳にも紹介されていますが、「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」というシステムがあります。
これは、働く妊婦さんが現在の状況を適切に事業主に伝えるためのものです。
妊娠しているときの大変さはなかなか伝えにくいものですが、この母健連絡カードは診断書と同等ですので、切迫早産の症状と安静の大切さを職場に伝えるための道具として、ぜひ活用してください。
仕事をしていない妊婦さんでも、家事や育児で安静にできないことは多いと思います。
診断をパートナーに伝えて可能な限りワークシェアをしてもらうことや、可能であればご実家や友人に保育を手伝ってもらうことなどを検討しましょう。
産前産後ヘルパーなどの公的制度がある自治体も増えています。
現状は不十分ではありますが、それでもある程度のサポートにはなりますので、必要であれば、自治体の担当部署に相談してみてはいかがでしょうか。
とにかく一人で抱え込まずに、赤ちゃんのためにしっかり安静をとりましょう。
切迫早産や早産に確実な予防法や治療はありません。
少しでもリスクを減らすため、定期的に妊婦健診を受け、日頃から体調に気をつけて無理のない生活を送りましょう。
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科