2022.04.04
妊娠中や出産時、これまで何の問題もなく経過していても、突然不幸な転機をたどってしまうことがまれにあります。
日本の周産期医療は他の国と比較して最も安全なレベルですが、それでも想定外の事態に直面するリスクをゼロにすることはできません。
今回は、おなかの赤ちゃんとお別れしなければならなくなる流産や死産と、お母さんをサポートするグリーフケアについてご紹介します。
一般的に流産※とは、妊娠22週までに妊娠が終了することを指し、それ以降を死産と言います。
妊娠12週未満の流産を早期流産と呼び、12週以上22週未満を後期流産と言います。
早期流産の場合は、必要に応じて、子宮内の胎児や胎盤を取り出す流産手術を行うことがあります。
後期流産や死産の場合は、入院し陣痛促進剤を使っておなかの赤ちゃんを娩出(べんしゅつ)します。なお、この場合は死産届を提出する必要があります。
流産や死産でショックを受けているのに、さらに手術や分娩とも向き合わなければならないことは、お母さんにとってかなりつらいことです。
しかし、娩出をしなければ母体への影響があり、また、次の妊娠に向けても必要な処置となります。
なお、生まれてから1週間未満で赤ちゃんが亡くなった場合を「早期新生児死亡」と言い、死産と合わせて「周産期死亡」と言います。
おなかの赤ちゃんが亡くなる原因は、妊娠12週までの早期流産の場合、受精卵の染色体異常など、赤ちゃんに起因するものがほとんどだといわれています。
一方、妊娠12週以降の後期流産や妊娠22週以降の死産の原因はさまざまですし、確定できないことも多くあります。
血液型不適合や、さまざまな疾患により、赤ちゃんの全身がむくんで危険な状態になります。
※子宮外で妊娠が成立した場合、赤ちゃんが出産できるまで大きくなることは不可能なため、卵管妊娠が判明した場合は原則として緊急手術になります。
死産につながる可能性がある異常を知らせるサインには、次のようなものがあります。
しかし、これらは必ずしも死産の兆候とは限りませんし、お母さんがおなかの赤ちゃんの状態を判断するのはとても難しいことです。
「おかしいな?」と思う症状があったら、自分で判断せず、すぐにかかりつけのお医者さんに相談しましょう。
また、妊婦健診をきちんと受けることも大切です。
ただ、お母さんが十分に注意していても、ある一定の確率で死産は起こってしまいます。
産科医療の発展により、周産期死亡率・死産率は減少していますが、残念ながら、赤ちゃんの深刻な異常のすべてを予測や予防ができるわけではないのです。
流産や死産になると、多くの場合、お母さんが自分の行動を振り返って、あれをしてしまったからではないか、あれを食べたからこうなったのかも、すぐに病院に行けばよかった、などと自分を責めがちです。
しかし、死産の原因がお母さんの行動であることはありません。
多くの場合、死産は突然に起こります。
そしてそれは、誰にも防ぐことができません。
ですから、もしも死産という悲しい現実に遭遇することになっても、それはお母さんのせいではありません。
おなかの赤ちゃんとお別れしたお母さんの気持ちを周囲の人に理解してもらうことは、ときに難しいかもしれません。
夫や親しい友人の言葉でも受け入れられないことが多いものですし、相手が悪意を持っているはずなどないのはわかっているのに、むしろ気持ちを逆なでされるようなこともあります。
そんなとき、専門家や同じ体験をしたお母さんなどがお母さんの気持ちに寄り添って、心身の援助をするのが「グリーフケア」です。
つらい気持ちから立ち直るのが難しいときは、かかりつけの病院や、グリーフケアを行っている機関に相談してみるといいでしょう。
また、最近では、自治体の産後ケア事業や産婦健康診査にも、流産や死産のケースが含まれるようになりました。
自分の心身を十分にいたわり、一歩前に進むためにも、グリーフケアの力を借りることをお勧めします。
『参考資料』(2022年3月閲覧)
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科