2022.05.26
前編【▶記事はこちらから】でお話しした産褥期の睡眠についての知識に沿って、対策をご紹介します。
前編の知識編でも述べましたが、産後は赤ちゃんのお世話によって睡眠が分断されるため、長く続けて眠っていられる時間が短くなる傾向にありますが、夜間、早く入眠することにより睡眠が長くとれる研究結果があり1)、早寝は産後の睡眠状態の改善に役立つと考えられます。
また、夜間授乳の姿勢を工夫することで、疲労が減り睡眠時間の確保につながることもあります。
楽に感じる体位で行えば、体への負担は軽減されます。添え乳で授乳するのが、疲労が少ないというデータがあります2)が、そのまま母親がつい寝てしまって、赤ちゃんを圧迫する危険性がありますから、注意が必要です。
横抱き・立て抱き・フットボール抱き・添え乳など様々な方法がありますので、クッションや枕など利用して、一番楽と思えるやり方を試行錯誤してみるのがいいでしょう。
夜間授乳も慣れてくると手際よくなり、睡眠時間の確保につながります。
夜間の授乳(ミルク)のタイミングは、時間を決めて赤ちゃんを起こして飲ませる方法と赤ちゃんが泣いたら起きて授乳する方法がありますが、赤ちゃんの睡眠サイクルに合わせ、赤ちゃんが泣いたら授乳する方が、スムーズに授乳が終わり、母親の睡眠の効率が上がるというデータがあります2)。
ただし、赤ちゃんのタイミングに合わせて授乳(ミルク)を行う場合は、赤ちゃんの体重などの発育の具合、排尿排便、元気があるかをよく観察することが大事です。
また、胸が痛いときは搾乳等を行い、乳房のマッサージなどのケアも行っておく必要があります。
部屋の環境は、就寝前に冷暖房の温度設定や照明や騒音などの不具合がないか確認を行います。
合わせて、赤ちゃんの体に変わったところがないか(汗をかいている、湿疹が出ているなど)も確認するようにしましょう。
暑すぎて目覚めている場合や、かゆみによる不快感で目覚めている場合もあります。
産褥期に女性ホルモンが減少するのは困ったことですが、分泌が盛んになるホルモンもあります。それは乳汁の分泌を促すホルモン、プロラクチンです3)。特にプロラクチンは夜間に赤ちゃんがおっぱいを吸うことでよく反応します。
そして母親をリラックスさせ、眠気を誘う効果があります3)。
また、もう一つのホルモンがオキシトシンです。オキシトシンは乳腺を刺激して授乳を可能にするホルモンですが、ストレスを緩和し、自律神経を整える効果もあるのです4)。
さらに、睡眠を誘発する重要なホルモン、メラトニンの母体となる神経伝達物質、セロトニンの分泌を活性化してくれます5)。
ですから、オキシトシンが十分に分泌すれば、良い睡眠を得られると言えます。
オキシトシンの分泌は母親に限らず、人間同士の接触(ハグや握手など)でも分泌され、他者とのコミュニケーション力を高め、愛を深める作用4)があります。
母親が赤ちゃんをしっかり抱き、スキンシップすることでオキシトシンの分泌が高まり、親子の愛が深まって、互いの心の安定に繋がります。
心の安定は良い睡眠を得る要素です。
1⃣朝起床をしたら、太陽の光を浴びて体内時計をリセットして生体リズムを整えましょう。
2⃣周りの人と相談をしながら朝食は必ず食べましょう。
摂食時間も睡眠に影響しますので、朝抜きや遅い夕食は生体リズムを崩しやすくなります。
食欲がない場合は、クッキー1枚とジュースなどでいいですから、何か固形物と水分を取ることが大切です。
夕食は遅くならないように注意しながら腹八分にし、消化の良いものを食べましょう。
3⃣日中の適度な活動も良い眠りに繋がります。赤ちゃんと一緒に外に出ましょう。
外気を浴びてお散歩すれば、運動と気分転換になるので、いい意味での疲労が得られ、それが良い睡眠に繋がります。
4⃣仮眠と昼寝は産褥期の睡眠不足を補います。
赤ちゃんの様子を見ながら仮眠をとりましょう。
眠気覚ましは、庭やベランダに出てストレッチをしたり、おやつを食べたりするのが効果的です。
5⃣入浴は寝つきを良くしてくれます。
就寝2時間前ぐらいにぬるめのお湯(38~40℃)でゆっくり(15~20分)体を温めます。
家族の助けでゆったりした入浴時間が得られればいいのですが、赤ちゃんのバスタイムで精いっぱいで、自分はシャワーですますことも多いかもしれません。
その時は首・肩・手首・足首を主にお湯をかけよく温めます。
おなかや背中の胃の裏側に当たる部分も温めましょう。
6⃣寝室寝具の環境も睡眠には重要です。
敷物、掛け物の材質は吸湿性、放熱性が良く、肌に優しいものがよいです。
睡眠アドバイザーのいる寝具店で相談し、新たに購入してみるのもいいでしょう。
寝室はエアコン・加湿器、空気清浄機などを備え、赤ちゃんの体調に合わせ調整しましょう。
赤ちゃんが汗をかいていないか、肌が冷たくなっていないかなどチェックします。
7⃣リビングと寝室の照明は特に睡眠には大事なものですので明るさに気をつけましょう。
特に夜の明るすぎる照明やスマートフォン・テレビなどの青白い光は睡眠を誘発するホルモン、メラトニンの分泌が抑えられてしまいます。
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最後に、赤ちゃんも寝てくれて、いよいよ自身が眠りにつこうというとき、ひとつ習慣づけてほしいことがあります。
それは就眠儀式といって、寝る前に心と体を落ち着かせ、睡眠に導くことです。
ハーブティーや牛乳を飲む、アロマを嗅ぐ、静かな音楽を聴く、座禅をするなどいろいろあります。
また軽いストレッチや夜ヨガ、産褥体操もいいでしょう。自分のオリジナル儀式を発明してもかまいません。
就眠儀式を習慣づけることで、自律神経を交感神経の優位から副交感神経の優位にバトンタッチすれば、健やかな眠りを得ることができます。
産褥期をすぎても、育児による睡眠不足は続きますが、赤ちゃんの成長につれて睡眠状況が改善していくので、何事もポジティブに受け止め、ゆったり構えていきましょう。
『参考資料』
《 監修 》
橋爪 あき(はしづめ あき) 睡眠改善インストラクター
慶應義塾大学卒業。
一般社団法人日本眠育普及協会代表、睡眠改善インストラクター(日本睡眠改善協議会認定)、
日本睡眠教育機構上級指導士、日本睡眠学会会員、NPO法人SASネットワーク理事。
睡眠知識の広報活動、講演、執筆、メディア・企業の企画協力などを行う。
▶HP https://min-iku.com/