【妊娠中】赤ちゃんの異常を調べる 出生前検査 を検討するときに知っておきたいこと【医師監修】

2022.10.07

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出生前検査とは?

妊娠中に、おなかの中の赤ちゃんの異常を調べる検査を出生前検査といいます。

出生前検査には大きく分けて、見た目で分かる異常(形態異常)を調べる検査と染色体の構造や数の異常(染色体異常)を調べる検査があり、これらの検査の結果をもとに医師が行うのが出生前診断です。
 
おなかの赤ちゃんの状態を早い段階で予測できれば、例えば高次医療施設での分娩にすることで出生後すぐに生命に関わるような変化に対応することが可能になります。
一方で、早い段階で予測された検査の結果をどのように受け止めるか、お母さんやお父さんが難しい判断を迫られることもあります。

出生前検査の種類

形態異常の検査については、定期健診で行う超音波検査で行うことができます。

施設によっては、通常の定期健診と別の枠で、胎児超音波を専門にしている医師が十分な時間をとって心臓などの構造を胎児スクリーニングとして施行しているところもあります。
 
染色体異常の検査の場合、直接染色体を採取して異常の有無を調べる確定的検査と、間接的に推定して異常の可能性(確率)を調べる非確定的検査があります。
非確定的検査で異常の可能性が高い場合、お母さんやお父さんの要望があれば、確定的検査を行います。

出生前検査【非確定的検査】

●超音波検査(NT測定)

時期:妊娠10~14週
検査方法:超音波検査
母体や胎児へのリスク:基本的にはなし

 
妊娠初期の赤ちゃんで首の後ろにむくみが目立つことがあり、これをNT(nuchal translucency)と呼びます。
むくみの幅が広いと染色体異常の可能性が高まるとされています。
NTの測定には特別の機器は不要で、通常使われる超音波(エコー)で行えますが、赤ちゃんの体勢によってはうまく描出できないことがあります。

※参考元:公益社団法人 日本産科婦人科学会 https://www.jsog.or.jp/

 
 

●母体血清マーカー検査(トリプルマーカーやクアトロテスト)

時期:妊娠14~16週
検査方法:母体からの採血
母体や胎児へのリスク:基本的にはなし

 
お母さんの血液に含まれるタンパク質やホルモンの値から、おなかの赤ちゃんの染色体異常(21トリソミー(ダウン症)、18トリソミー(エドワーズ症候群))や二分脊椎症(にぶんせきついしょう)、無脳症(むのうしょう)の確率を推定します。
近年は、超音波検査と組み合わせた「ハイブリッド検査」を施行する施設が増えています。
 

●新型出生前診断(NIPT

時期:妊娠10~15週
検査方法:母体からの採血
母体や胎児へのリスク:基本的にはなし

 
お母さんの血液中に微量に含まれている赤ちゃんのDNAを分析し、染色体異常(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー(パトウ症候群))の可能性を調べます。
染色体異常以外の疾患については一切分かりません。
検査結果は陽性・陰性・判定保留という形で示されます。精度が非常に高い検査ですが、陽性の場合でも確定診断をするには羊水(ようすい)検査が必要になります。

出生前検査【確定的検査】

●羊水検査

時期:妊娠16~18週
検査方法:腹部から子宮内に針を刺して羊水を採取する
母体や胎児へのリスク:出血・破水・流産・胎児の受傷・絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)などの感染症など

おなかの赤ちゃんを包んでいる羊水を採取し、羊水に浮かんでいる赤ちゃんの皮膚の細胞から染色体異常を診断します。
絨毛検査よりは低いですが、検査による感染などにより0.3~0.5%の流産率があります。
また、非常にまれですが、染色体の状態などにより結果がはっきり出ないことがあります。

 

●絨毛(じゅうもう)検査

時期:妊娠10~14週
検査方法:腹部に針を刺す、または腟(ちつ)から管を入れて絨毛を採取する
母体や胎児へのリスク:出血・破水・流産・腹膜炎(ふくまくえん)などの感染症など

妊娠早期の胎盤(たいばん)の一部である絨毛を調べることで、おなかの赤ちゃんの染色体異常や遺伝子疾患を診断します。
絨毛の採取は流産のリスクが高く、実施している施設は限られます。
羊水検査よりも早い時期に受けることができますが、約1%の流産率です。

新型出生前検査(NIPT)の新制度がスタート


NIPTは非確定的検査ながら精度が非常に高く、赤ちゃんへのリスクもない検査です。

もともとは臨床研究として大学病院を中心とした出生前カウンセリングの有資格者がいる施設のみでの検査で、検査費用も高額で年齢制限もありましたが、それでも検査希望者が殺到し、希望しても検査ができない状況が続きました。
それに呼応するようにNIPTとほぼ同等の検査を、年齢条件なし、カウンセリングなしでやや安価に行うことをうたう検査専門の医療機関がたくさん宣伝広告をするようになりました。

検査そのものは、他国でそれなりに実績のある業者の検査を導入しているところもあり、その場合は結果も信頼できるのかもしれません。
しかし、実際の診療では、事前に必要十分なカウンセリングをせず、検査結果について一切の説明なしに結果だけを伝え、その後のフォローはまったくしない施設があり、陽性の場合に検査の意味を何も知らされないままかかりつけの産婦人科に丸投げされてトラブルになったケースも少なからずありました。
 
そこで2022年から、NIPTの年齢制限を撤廃し、認可条件を見直すことでNIPTが可能な施設をさらに広げ、適切な説明ときちんとしたフォローを行っている施設を公的に「認証」し、営利目的で行っている施設と違うことを明らかにするために制定されたのが「出生前検査認証制度」です。
 
現在、全国で百数十の医療機関が認証されています。
これらの医療機関でのNIPTであれば、検査の前後で遺伝カウンセリングを受ける機会がありますので、検査を受けるかどうか、結果に対してどんな対応をするのか、などNIPTを正しく理解して選択するための情報が得られます。
また「結果に対して適切に対応できること」が認証の条件ですので、結果だけ渡されて放り出されることはありません。

出生前検査をする前に考えておきたいこと

生まれてくる赤ちゃんの発育や異常の有無について、お母さんやお父さんが知っておきたいと思うのは自然なことです。

近年は出産年齢が高くなっており、それによる染色体異常の確率の上昇もよく知られてきたため、出生前検査を希望する人が増えています。
 
でも、お母さんやお父さんが、もし「何となく知りたいから」「確認して安心したいから」などの気持ちだけで出生前検査を受けようと思っているのであれば、もう少し考えを詰めなければいけません。
出生前検査で具体的に何が分かるのか、何が分からないのか、結果が望ましくなかった場合にはどうするのか。
選択によっては、お母さんやお父さん自身の人生観や倫理観が問われる場合もあるのが出生前検査です。
 
精度が高いとされるNIPTでも、陽性になった場合、確定させるには羊水検査が必要になります。
次の検査まで日にちがあまりない中で、もしも異常があると分かったらどうするのかを決断することは、決して簡単なことではありません。
しかも確定のための羊水検査や絨毛検査では、流産や子宮内感染を引き起こす可能性もあります。
 
出生前検査を受けるかどうかは、事前にこれらのことを夫婦でしっかりと話し合って判断することが重要です。
また、実際に検査を受ける場合には、十分に情報を収集し、信頼できる医療機関を選ぶようにしましょう。

《 監修 》

  • 井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医

    よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。

     

    HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科

     

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