2022.11.01
妊娠30週くらいから不規則に子宮が収縮することが増えますが、それは陣痛とはいいません。
「規則的」というのは「間隔が10分以内か、1時間に6回以上」とされており、それがどんどん強まっていくのが陣痛です。
一時的に10分以下の間隔になっても、しばらくして間隔が長くなったり不規則になったりすることもあり、その場合は「陣痛ではなく前駆陣痛だった」と考えます。
つまり今の痛みが陣痛なのか前駆陣痛なのかはその時点では判別できません。
病院に行くかどうかの判断は施設によって違いますので、自分の子宮収縮間隔(陣痛間隔)をカウントして陣痛が疑わしいときは病院に連絡して指示を仰ぎましょう。
自然に陣痛が来てお産になるのが理想ですが、実際にはなかなか陣痛が来なかったり、来てもすぐに間隔が空いてしまったりと、思ったようにはいかないのが普通です。
状況に応じて医学的なサポートをすることで、赤ちゃんやお母さんに大変な思いをさせないのが多くの産婦人科での対応になります。
今回は適切な陣痛を起こすために、どのタイミングでどんな処置が行われるのか、陣痛を誘発、促進する方法についてご紹介します。
その行為をする時点で、陣痛が来ていない状態なら「誘発」、すでに陣痛が来ているけれども陣痛が弱くて分娩が進行しない場合なら「促進」といいます。
陣痛が起こるためには、子宮の側でも陣痛を起こす準備が必要になりますので、一般には促進より誘発の方が効果が出るのに時間がかかり、何日かけても反応しないこともあります。
予定日を2週間以上過ぎて産まれることを「過期産」といいますが、その分赤ちゃんも大きくなっていますので難産になる確率が高まりますし、42週を越えると胎盤の機能が急激に衰えますので、分娩の最中に赤ちゃんが苦しくなる確率も高まります。
そこで、過期産予防のために41週を過ぎた時点で陣痛誘発を検討します。
施設によっては41週を過ぎたら全例誘発とするところもあるようです。
また、予定日(40週)より前であっても、これ以上妊娠を継続することが医学的にお母さんやおなかの赤ちゃんのリスクになる場合にも陣痛誘発が行われます。
主な理由としては、妊娠高血圧症候群(にんしんこうけつあつしょうこうぐん)や陣痛が始まる前に破水する前期破水(ぜんきはすい)で子宮内に感染が疑われるとき、また赤ちゃんの発育が子宮内で停止しているのが明らかなときなどです。
お母さんや赤ちゃんになんの問題もなくても、子宮口が柔らか過ぎて陣痛が来たらすぐに産まれてしまうことが予測できる場合、自宅分娩や車中分娩などを回避するために陣痛誘発を行うことがあります。
また、医学的には必要性がなくても、ご夫婦の都合などで計画分娩として陣痛誘発を実施する施設もあります。
間隔が10分以下になってもその後まったく間隔が縮まらないような場合や、多くはお母さんの疲労のため途中で陣痛が弱くなる場合(疲労性の微弱陣痛)は分娩が進みません。
これらのときは、陣痛が適度な強さになるように陣痛促進を行います。
赤ちゃんが包まれている卵膜は、子宮の内側と胎盤表面を覆っており、子宮の内側の壁と卵膜は毛細血管などもあって通常はぴったりとくっついています。
卵膜剥離とは、内診のときに、医師や助産師が子宮頸管に指を入れ、卵膜の一部を子宮壁からはがすことです。
子宮頸管付近に物理的な刺激を与え、毛細血管を破綻させますので、出血を伴うことも多いです。よく「おしるし」と呼ぶ分娩初期の出血も、この卵膜と子宮壁とが剥離されたときの出血であり、それを人工的に行うのが卵膜剥離です。
子宮頸管はもともとピッタリ閉じていて消しゴムくらいの硬さがありますが、最終的にはつきたてのお餅くらい柔らかくなって赤ちゃんを産むために10cmくらいまで広がらなければいけません。
この柔らかくなることを「熟化」と呼びますが、卵膜剥離によって熟化のスイッチが入ります。
卵膜剥離を行うタイミングとして多いのは、予定日を越えても自然な陣痛が起こらない場合で、多くは外来で行います。
妊娠42週に入ると過期妊娠といい、赤ちゃんが大きくなり過ぎたり胎盤機能が低下したりする恐れがありますので、それを予防するために簡便に行える処置です。
お母さんにも赤ちゃんにも特にリスクはありませんが、内診時に破水してしまうこともあります。
卵膜剥離による痛みは個人差があり、中には強い痛みを感じる人もいます。
なお、卵膜剥離時に出血をすることは多いですが、量が多くなければ問題はありません。
卵膜剥離は薬剤も使わず簡便に行える点が優れていますが、痛みなどの強い不快感を伴うかもしれず、他の頸管熟化法で十分対応できるため卵膜剥離の実施に否定的な施設もあります。
ご自身が分娩する施設の方針に従ってください。
赤ちゃんにとっての子宮の出口を子宮口といい、子宮口付近を子宮頸管と呼びます。
子宮口は最終的には10cmくらいまで広がって分娩になるわけですが、もともとピッタリ閉じていて消しゴムくらいの硬さがあります。
この子宮頸管を人工的に広げることを子宮頸管拡張といいますが、硬いままでは拡張しませんので、柔らかくしてから広げることになります。
この柔らかくなることを「熟化」といいます。
後で説明する陣痛促進剤も、子宮頸管が熟化・拡張していないと十分な効果が期待できないため、陣痛促進剤を使うことを前提に行われることが多いです。
子宮の頸管に頸管拡張材を挿入します。
頸管拡張材として使われるのは、水を吸って器械的に広げるタイプのラミナリア桿、ダイラパン、ラミセルなどが昔から使われています。
またメトロイリンテルといって中に水を入れて膨らませるタイプもあります。
子宮頸管の熟化や拡張が足りないとき、多くは陣痛誘発剤の使用の前段階として行います。
熟化不全のまま陣痛誘発や促進を行うと、成功率が落ちるばかりか帝王切開率も高まることが分かっています。
一方で頸管拡張だけで自然陣発が促されることもあり、予定していた陣痛誘発剤を使わずに済むケースもあります。
子宮頸管に異物が挿入されるので、人によっては強い痛みを伴うことがあります。
感染リスクが上昇するという意見もありましたが、現在では否定されています。
メトロイリンテルの場合、非常に確率は低いものの、使用中や使用後にへその緒が出てきてしまう(臍帯脱出)可能性があって、その場合は超緊急帝王切開になりますが赤ちゃんの予後が悪いことが知られています。
陣痛のメカニズムは不明な点もありますが、脳の下垂体から分泌されるオキシトシンが大きく関与をしていることが分かっています。
また子宮頸管の熟化にはプロスタグランジンというホルモンが関係しています。
陣痛誘発・促進剤として使用されるのはこのオキシトシンやプロスタグランジンで、主に点滴で投与します。プロスタグランジンには錠剤もあり、施設によっては併用するところもあるようですが、産科ガイドラインではある程度の間隔を空けなければ併用しないようにとされています。
近年ではプロスタグランジンの一種であるジノプロストを持続的に放出するデバイスを腟内に留置する方法もあります。
微弱陣痛や前期破水、過期妊娠など、陣痛を誘発、促進する必要があるときに広く使用されます。
計画分娩の場合は、前もって子宮頸管拡張を行った上で陣痛促進剤を使用するのが一般的です。
なお、お母さんの骨盤よりも赤ちゃんの頭が大きい児頭骨盤不均衡(じとうこつばんふきんこう)や胎盤が子宮口を覆っている前置胎盤(ぜんちたいばん)、赤ちゃんの頭が下を向いていない逆子などの場合、陣痛促進剤は使用されません。
陣痛促進剤によるリスクは、薬剤が効き過ぎて過強陣痛になることです。
過強陣痛になると、陣痛の痛みが強いだけでなく、子宮破裂や頸管の裂傷が起きたり、過度の圧迫によりおなかの赤ちゃんが酸素不足になったりする恐れがあります。
そのため陣痛促進剤の使用にあたっては、お母さんと赤ちゃんの状態を分娩監視装置で確認しながら慎重に薬剤の量を調節します。
出産直後に赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらうと子宮収縮が促され、収縮痛は強まるものの弛緩出血の防止に役立ちますが、分娩前でも乳頭部を刺激して陣痛を誘発・促進することがあります。
産後の母乳育児にもプラスになりますので、乳頭ケアの一環として担当助産師のアドバイスに従って行ってください。
ただし、四つんばいで腹筋を使う運動は分娩時に使う筋力のトレーニングにはなりますので、まったくの無効とはいえません。
散歩や階段昇降も同様で足腰のトレーニングは非常に大事ですし、歩行の刺激は陣痛にはプラスになりますので無理のない範囲で積極的に行うことは推奨できます。
また、陣痛の起こり方や強さは分娩ごとに異なります。
陣痛の誘発や促進を勧められたときは、どうしてその処置が必要なのか、やり方やリスクはどのようなものか、事前に医師や助産師に説明してもらい、納得して処置を受けるようにしましょう。
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科