2020.02.04
働きながら安心した妊娠・出産ができるように、 労働基準法の母性保護規定と男女雇用機会均等法の母性健康管理措置には、妊娠中の方および産後一年を経過しない方(以下「妊産婦」と記載)に対して、健康を確保するための規定が定められています。
一般によく周知されている産前産後休業だけではなく、危険有害業務の就業制限、軽易な業務への転換、時間外労働・休日労働・深夜業の免除、育児時間の申し出など、いろいろな制度があります。具体的には、下記の通りです。
①妊娠中・産後 危険有害業務の就業制限 ※重量物の取り扱いなど(労働基準法)
②妊娠中 軽易業務転換(労働基準法)
③妊娠中・産後 時間外労働・休日労働、深夜業の制限 (労働基準法)
④産後 育児時間 (労働基準法)
⑤妊娠中・産後 保健指導、健康診査を受ける時間の確保 (男女雇用機会均等法)
⑥妊娠中 通勤緩和 (男女雇用機会均等法)
⑦妊娠中 休憩に関する措置 ※延長・回数増加など (男女雇用機会均等法)
⑧妊娠中・産後 健康診査等の結果、症状等に対する措置 (男女雇用機会均等法)
今回は妊娠中の話ということで、労働基準法に規定されている②③についてご案内します。
なお、①については、対象者があまり多くないと考えられますので、厚生労働省作成資料(P13~14)(リンク)で確認してください。
妊産婦の方は、時間外労働・休日労働・深夜業を行わないように、会社へ申し出ることができます。
用語の定義は、下記の通りです。
なお、フレックスタイム制以外の変形労働時間制が適用されている場合でも、妊産婦の就業制限においては、時間外労働・休日労働の定義は下記をそのまま当てはめて考えることになります。
■時間外労働とは、1日8時間、1週40時間を超える労働のことをいいます。
■休日労働は、1週間のうち1日は最低限休日を確保しなければいけないのですが、その休日(法定休日といいます)に労働することです。
■深夜業は、22時から5時までの労働を指します。
妊娠中の体調は個人差が大きいものなので、周囲の妊娠経験者がどうであったかよりも、自分自身の健康状態を優先しましょう。
会社がこの申し出を拒否することはできませんので、申し出をしたのに残業をさせられた・・という場合は、残業命令をした先輩や上司よりも上の立場の方か、人事労務系の部署へ相談しましょう。
それでも状況が改善しないのであれば、労働基準監督署の監督課(署によっては方面と呼ばれる)や社労士に相談することが選択肢に入ってきます。
ただ、気を付かなくてはいけないのは、残業=時間外労働ではないということです。
ややこしいのですが、例えば1日の決められた勤務時間(所定労働時間)が9時から17時30分(休憩1時間)という7時間半で設定されている場合、30分残業したとしても、8時間は超えませんから、その残業は「所定外労働」であっても「時間外労働」ではありません。
そこまで厳密に計算している会社は少ないと思いますが、「法令違反だ!!」と行動し、気まずくなる事態は避けたいところです。
長時間の立ち仕事であったり、外勤のある営業職であったりする場合に、座っている時間の多い業務へ一時的に変更してもらうことなどが、一般的な例として挙げられます。
こちらも時間外労働などの制限と同じく、会社は申し出を拒否することができません。
ただ、行政通達では、「会社が新たに仕事をつくる義務はない」との解釈が示されています。
必ずしも希望が通るわけではないことに留意しておく必要があるといえます。
軽易な業務への転換が難しい場合は、別記事の男女雇用機会均等法における「母性健康管理措置」として、休憩時間の増加や勤務時間の短縮等の措置を講じてもらうといいでしょう。
結論から申し上げますと、日本の雇用慣行においては、業務が変わったからといって、給料が変わることは考えにくいといえます。
特に、いわゆる「正社員」の場合は、ゼネラリストとして幅広い職務を経験していくことが前提で、部署の異動は当たり前です。
そして、異動によって給料が変化することはなく、それまでの評価が積みあがった基本給が維持されるのが、日本型雇用なのです。
そこを踏まえて考えますと、例えば外勤営業職から内勤に変わったからといって給料が減額されるというのは、通常起こり得る部署異動と比べると、非常に無理のある措置であり、状況によってはマタニティーハラスメント(マタハラ)といえなくもありません。
基本的には減額がされないわけですが、例外もあります。
例えば、意義がハッキリしている手当がつかなくなる場合です。
危険な作業や深夜の勤務などについて手当が発生している場合、それらの作業や勤務がなくなるのであれば、その手当がつかなくなるのは当然といえます。
先ほどの外勤営業職から内勤に変わる例でも、「営業職の社員には営業手当を支給」と就業規則などで明確に規定してある場合は、やはりその手当がつかなくなるのは仕方のないことといえます。
なお、職務限定の非正規雇用などでは、職務によって異なる時給が明確に定められていることもあり、そういった場合では給料が減額となる可能性がありますので、注意が必要です。
例は少ないですが、欧米のような職務や役割に応じた給料体系で運用されている会社においても同様といえます。
ちょっと奥が深すぎるお話になってしまいましたね。いずれにしても、給料が減額となる場合は、しっかりと理由を確認しておくことが重要かもしれません。
※親しみやすい表現を心掛けておりますので、法律上の文言とは違う表現をしている場合があります。例:「請求」→「申し出」など。
《 監修 》
木幡 徹(こはた とおる) 社会保険労務士
1983年北海道生まれ。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則整備・人事制度構築・労務手続きフロー確立など、労務管理全般を組織内から整える。スタートアップ企業の体制構築やIPO準備のサポートを主力とし、企業側・労働者側のどちらにも偏らない分析とアドバイスを行う。
▶HP https://fe-labor-research.com/