2024.11.25
チックは1日に何度も発生し、1年以上ほぼ毎日発生しますが、連続してチックが発生しない期間は3カ月以内です。
睡眠中は著しく減少します。
運動チックと音声チックの両方がみられる場合は、トゥレット症(トゥレット症候群)と呼ばれ、重症のチック症ですが、1,000人に数人と比較的稀です。
また、症状が1年以上続くものを持続性(慢性)、1年未満でなくなるものを暫定的(一過性)と呼んでいます(図1)1,2,3) 。
ここでは、チック症にあらわれる症状をチックとします。
図1 チック症の分類
チックは、小児期の子どもの10人に1人程度にみられますが、大部分は一過性で病院などでの受診を迷っているうちに症状が消えてしまいます。
トゥレット症は、学童期の子どもの1,000人に3~8人みられ、男児の方が女児よりも1.5から3倍多いです2,3) 。
成人までチックが続くことは少ないのですが、逆に成人になってチックが強くなることもあります。
成人になってからチック症を新たに発症することはほとんどありませんが、子どものころには目立たなかったチックが強く出るようになり、成人になってみつかることがあります2) 。
チック症の思春期前の子どもは、📖注意欠陥・多動症(ADHD)、強迫症、分離不安症を起こしやすいといわれているほか2) 、📖自閉症(自閉スペクトラム症)と共通する症状がみられ、チック症と自閉症をあわせて持つ子どももいます4) 。
遺伝(体質)や環境などの影響で、脳の機能の一部がうまく働かなくなっているのではないかと考えられています。
ですから、決して親の育て方やしつけのせいではなく5) 、お子さんご本人のせいでもありません。
チックの出かたには、とくに目的がなさそうにみえるけれど、チックと分かりやすく、持続時間が短い単純性チックと、一見して目的がありそうで、チックとは分かりにくく、持続時間がやや長い複雑性チックがあります。
単純性チックでは、まばたき、肩すくめ、奇声などがみられます。
複雑性チックでは、体の複数の部位がややゆっくり動き、表情を変える、物にさわる、意味のある言葉を発するなどがみられます(表1)2,3,7) 。
また、時間の経過とともに、チックの出る体の部位が変わるほか、体を動かしたくなる衝動・サイン(前駆的衝動)を感じたり、チックが出た後に緊張がゆるんだと感じたりすることがあります2) 。
表1 チック症の症状の出かた2,3,7,11)
分類 | 主な症状 | |
単純性チック | 単純性運動チック | まばたき 目を動かす 肩をすくめる 顔しかめる 首を振る 手足の曲げ伸ばし など |
単純性音声チック | せき払い 鼻を鳴らす のどを鳴らす 「ウッ」「ンン」などの奇声 など |
|
複雑性チック | 複雑性運動チック | 頭の回転と肩すくめが同時に起こる 物にさわる 他の人の動きをまねる(反響動作) 人前などですることがはばかられる身振りをする(汚行) など |
複雑性音声チック | 自分自身の言葉を繰り返す(同語反復) 人の言った言葉を繰り返す(反響言語) 人前などで言うことがはばかられる汚い言葉を発する(汚語) など |
DSM-5の診断基準では、持続性(慢性)、暫定的(一過性)、トゥレット症の3つの分類それぞれに診断基準を定めています。
どの分類のチックの診断でも、運動や音声チックがあるかないか、チックの続く期間、発症した年齢、他の病気や薬が原因でないか、などを判断して診断します2) 。
このようにチックは、診断基準によって診断されるのですが、てんかんでも似た症状がみられるため、てんかんではないことを確かめるために、脳波検査やMRI検査をすることがあります8) 。
逆に、生活にそれほど支障がない場合には治療は行わずに経過をみます(経過観察)9) 。
チック症の治療には、①経過観察、②心理的治療、③薬物療法の3つがあります。
チック症は、トゥレット症のような重症のチック症であっても、時間の経過とともに軽くなることがあるため、経過観察も治療法だといえます。
心理的治療の主な目的は、チックが出ることで生じる問題によって、不安や緊張感に悩む保護者と子どもの気持ちを鎮め、支えていくことに置かれています。
チック症について正しく理解し、不安を軽くすることも広い意味での心理的治療だといえます10) 。
一方、心理的治療の一種である行動療法は、チックを軽くする効果が期待できます。行動療法では、お子さん本人に自分の行動を意識させて、それを適切な方法に変えていけるように練習を積み重ねていく方法で、曝露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)、パブリックポスティング法、ハビットリバーサルがあります(表2)10) 。
表2 チック症の行動療法10)
種類 | 方法 |
曝露反応妨害法 | ① 「物に触ったから、手が汚い」など、あえて不安になる状態を作り、不安に身をさらす(曝露) ↓ ② 不安な気持ちに反応して生じる「手を洗いたい」などの衝動に逆らい、行動に移さず過ごす(反応妨害) ↓ ③ 不安は続くが、そのまま不安を消す行動をしないでいても、不安は収まっていく。それまで行動をがまんする |
ハブリックポス ティング法 |
「~ない」「~する」などと、決めたことを紙に書き、よく見えるところに張り出しておく |
ハビットリバーサル | チックをしたくなったとき、それとは逆の動作をするように訓練する。チックの前に感じるサイン(前駆的衝動)をつかみ、前駆的衝動が出たら実行する |
チックが激しい場合には、薬物療法を検討します。
ただし、現在のところ健康保険で使える薬はありません。
治療薬には、鉄剤、漢方薬、ドパミン拮抗薬(リスペリドン、アリピプラゾール、ハロペリドール)、ADHDの治療薬(グアンファンシン、アトモキセチン)などがあり、医師の判断によって使われます11) 。
また、チック症と一緒にみられることがあるADHDや強迫症の治療も行われます11) 。
子どもが悩んだり自信を失ったりするのは、チックそのものではなく、そのことでからかわれたり叱られたりすることです。
なるべくストレスを減らし、子どもが自信を失わないよう働きかけてあげてください1) 。
時には、上手に症状を無視することも必要です12) 。
ただし、チック以外のことで叱るべきことがあれば、きちんと叱ることも大切です13) 。
以下のような場合には小児科、児童精神科、精神神経科、大学病院の専門診療科などで診察を受けてください12) 。
保護者やご家族だけで悩まないで、他のご家族と支え合ったり情報交換したりすることも悩みや不安を軽くすることにつながります。
2001年に患者・家族の会である「NPO法人日本トゥレット協会」が設立され、情報提供や交流の場が設けられています。
詳しいことは同協会のホームページ(https://tourette-japan.org/)をご覧ください。
また、子ども向けの説明パンフレット”「チック」や「くせ」とうまくつきあっていけるように”が、東京大学医学部附属病院こころの発達診療部のホームページ(http://kokoro.umin.jp/)よりダウンロードできます。
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《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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