2024.12.23
睡眠時驚愕症(すいみんじきょうがくしょう)、夜間恐怖とも呼ばれます1,2) 。
夜だけでなく昼間におこることもあります3) 。
子どもの睡眠障害の一種です。
子どもの主な睡眠障害には、夜泣き、夜驚症、夢中遊行症(むちゅうゆうこうしょう:夢遊病ともいいます)があります1,2) 。このうち、夜驚症と夢中遊行症は、原因が共通しています2) (表1)。
夜驚症は、小児の1~6%にみられ、2歳ごろから学童期の間に起こりやすく1) 、5歳未満の小児では、25%で夜驚症が繰り返しみられます2) 。
小学生低学年頃までに自然に症状が出なくなることがほとんどです1) 。
神経系の未熟さと関係しているとされています。
また、睡眠中の恐怖反応には、悪夢と夜驚の2種類が含まれるとされていますが、アメリカのレオ・カナー(精神科医)は、この2つを比較し、複数の相違点を報告しています。
悪夢はレム睡眠に起き、夜驚は静かに眠っている時期(睡眠の第四期)に起こりやすいです。
悪夢は速やかに症状が回復しますが、夜驚は症状の回復に時間がかかります。4)
表1 子どもの主な睡眠障害1,2)
症状名 | 特長 |
夜泣き | ・生後6カ月ごろから2歳前後の乳幼児にみられる ・浅い眠り(レム睡眠)の時にみられる ・夜に周期的に泣きだしたり、また眠ったりを繰り返す ・睡眠のリズムによる生理的な反応と考えられる |
夜驚症(やきょうしょう) 別名:睡眠時驚愕症、夜間恐怖 |
・小児の1~6%にみられ、2歳ごろから学童期の間に起こりやすい ・深い眠り(ノンレム睡眠)の時にみられる ・突然驚いたように叫んで起きだし、強い興奮状態が数分間続く ・興奮中のことは覚えていないか、断片的 ・自律神経の興奮を伴うことが多い(脈が速くなる、呼吸数が増える、皮膚の 紅潮、大量の汗、瞳孔拡大、筋肉の緊張) |
夢中遊行症(むちゅうゆうこうしょう) 別名:夢遊病 |
・5歳以上から学童期にみられる ・深い眠り(ノンレム睡眠)の時にみられる ・睡眠中に突然起きだし、ベッドの上で飛び跳ねたり、部屋の中を歩き回る ・目は開けているが、無表情で、呼びかけても反応がないが、周囲からは目 がさめているように見える ・目覚めた後には症状が出た時の記憶がない |
人間の睡眠は、深い眠りのノンレム睡眠と、浅い眠りのレム睡眠の質的に異なる2つの睡眠状態で構成されています。
睡眠時には、まずノンレム睡眠で始まり続いてレム睡眠に移ります。
このノンレム睡眠とレム睡眠の組み合わせを睡眠周期と呼び、一晩に睡眠周期を数回繰り返します5,6) 。
夜驚症はノンレム睡眠の時に、脳の一部が覚醒したために起こります。
これは、脳の中の睡眠と覚醒を調節している部分が、成長の途中にある子どもではうまくは働かないために起こると考えられていて、睡眠のリズムが関係していると考えられています1,7) 。
両親などに夜驚症の経験があると、起こる割合が高いことから遺伝が関係していると考えられています。
💡また、夜驚症の子どもの3分の1には、きっかけがみられます。
きっかけには、楽しい体験(家族旅行や遊園地に行った)、恐怖を伴う体験(事故の経験や目撃、怖いテレビ番組や本をみたり読んだりした)、緊張する体験(学芸会、ピアノの発表会に出た)などがあります7) 。
症状の幅は広く、叫び声をあげる、激しく泣く、寝床で暴れる、何かをひどく怖がる、パニック状態になる、混乱するなどがみられます。
症状が出ている時に目は開いているのに無表情で、周囲の人が話しかけても反応しません。
自律神経が興奮して、脈が速くなる、呼吸数が増える、皮膚の紅潮、大量の発汗、瞳孔拡大、筋肉の緊張などがみられることもあります。
また、症状が出ている時のことをほとんど覚えていません1,2,8) 。
聞き取りでは、家族に夜驚症の経験者はいないか、深い睡眠時に起こるか、ストレスがきっかけになっているか、症状が出ている時の記憶はあるか、原因は神経の病気や頭の負傷ではないか、脈が速くなる・呼吸数が増える・大量の発汗・瞳孔拡大の有無などを確かめます2) 。
症状が続く時には、てんかんと鑑別するため、脳波検査を行うことがあります3) 。
しかし、頻度が高く家族の生活に影響が出る場合には、医師の判断で漢方薬や睡眠導入剤を服用することがあります。
漢方薬では、抑肝散(よくかんさん)、帰脾湯(きひとう)などが用いられます。睡眠導入剤では、ジアゼパム(商品名セルシン🄬など)、クロナゼパム(商品名リボトリール🄬など)などが用いられます3) 。
昔から夜驚症にはセルシン(ジアゼパム)やクロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系の薬が使われています。
(1) 夜驚症の予防では、症状が出るきっかけを作らない工夫をします。寝る前のカフェインなど(嗜好品)は控えます。ゲーム、スマートフォンの使用時間は、お子さんと話し合って決めましょう3) 。
(2) 質の良い睡眠がとれるよう、睡眠リズムを整えます3) 。「早寝・早起き」よりも「早起き・早寝」を心がけます。「早起き・早寝」とは、早く寝るように言うのではなく、まずがんばって1週間早起きをして、朝の日光を浴びるようにします9) 。
(1) 症状が出た時は無理に覚醒させずそっと安全に過ごせるよう見守ります3)
(2) 走り回るなどした時に、無理に止めようとすると、かえってひどくなります。危なくないように見守ります。走り回ることが多いようなら、けがをさせないために、周囲にガラスなどの壊れやすいものや、ぶつかりやすいものは置かないようにします7) 。
いずれにしても自然に良くなるので治療は必要ありませんが、薬剤の効果があるようなら使っても良いでしょう。副作用は眠気、ふらつきなどがあります。
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
📖子育てに掲載中の松井潔先生監修記事一覧
保護者の方が、休日・夜間の子どもの症状にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
この事業は全国統一の短縮番号♯8000をプッシュすることにより、お住いの都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けられます。
厚生労働省ホームページ:子ども医療電話相談事業(♯8000)について